本
全13巻からなる、朋文堂「世界山岳全集」の第6巻には、成功裡に終わった登山の記録が二編収録されている。そして、両編とも、それぞれの登山隊を率いた隊長によって書かれたという点でも共通している。一つはサー・ジョン・ハントの「エベレスト登頂」、もう…
当方の書棚に鎮座しているクリフォード・D・シマックの作品は、代表作にして傑作の誉れ高い「都市」をはじめ、「大宇宙の守護者」「マストドニア」「法王計画」「超越の儀式」の五冊である。この内、処女長編「大宇宙の守護者」は既に読み、今般、さて次はど…
「スタンフォード物理学再入門 量子力学」は、スタンフォード大学教授レオナルド・サスキンドが同大学で行った社会人向け講座(The Theoretical Minimum)から誕生した一冊にして、先に記事にした「スタンフォード物理学再入門 力学」の姉妹編(続編)である。そ…
フランツ・カフカについては、改めてご紹介する必要はないだろう。およそ世界文学全集と名の付く叢書において、この作家の作品を収録していないものはまず見られないことからも、現在カフカがどれほど重視されているかを窺うことができる。筑摩書房の世界文…
「中国の詩人―その詩と生涯」(集英社)の第三巻は、東晋から南朝の宋にかけて生きた謝霊運(しゃ・れいうん)を取り上げている。二十歳ほど先輩に陶淵明がおり、生きた時代は大きく重なっている。個人的なことを言えば、この詩人の名は、南朝梁の昭明太子によっ…
二見書房刊「釣魚名著シリーズ」の一冊に、衆議院議員を14期務めるとともに文部大臣、法務大臣などをを歴任した稲葉修の「鮎釣り海釣り」がある。この著者の政治家としての名前は、ちょうど個人的に世の中の事に目を向け始めた頃、政治の中枢におられたこと…
「僧正殺人事件」は、アメリカの推理小説作家S.S.ヴァン・ダイン(本名ウィラード・ハンティントン・ライト)が1929年に発表した、ファイロ・ヴァンス・シリーズの第四作である。原題は「The Bishop Murder Case」で、前三作同様、[6文字]の殺人事件となってい…
岩波講座の世界歴史を二巻読んで、現在の私の頭にある歴史知識は、遺憾ながらこの大部な叢書に取り組むには質・量とも全くもって不足であることを痛感し、些かでもそのギャップを補うべく、この「西洋史通論」を書棚から引っ張り出して読んだ。奥付によると…
五年ほど前、久しぶりに力学を少し見直してみよう、しかしガチガチに基礎からやり直すのはちょっと…と、例によって手前勝手な欲求を覚え、Amazonをつらつら眺めている際に見つけて、これはまさにぴったりではないか、と購入したのが、この「スタンフォード物…
ほぼ文学史の年代を追うような形で作家を取り上げ、その作品を収録する巻を連ねているので当然と言えば当然なのだが、筑摩現代文学大系の第11巻は、一つ前の田山花袋集に続いて自然主義文学の大家、德田秋聲(秋声)の集に当てられている。これまでにも何度か…
キース・ローマーの作品を読んだのは、この「多元宇宙SOS」が初めてである。タイトルから予想したのは、「多元宇宙論(マルチバース=multiverse)にテーマもしくはモチーフを求めた物語だろう、」ということだったが、それにしてはゴリラとオランウータンを思…
「Foundations of Modern Analysis」は、フランス数学界の碩学、ジャン・デュドネ(Jean Dieudonne)が1960年代初めに著した一冊にして、そのタイトルが明に示す通り、また序文にも記されているように、現代解析学の基礎・基盤を読者に提示するものである。タ…
文学者としてのヴァレリーの名は承知していた一方、クローデルと聞いて頭に浮かんだのはカミーユ・クローデルのみで、しかしこちらは、確か女流彫刻家でロダンの弟子かつ愛人だったはず…と、こう言えば私の知識の程度が知れてしまうが、そもそも両者ともその…
名立たる先生方による、伝統のヨイショ芸を堪能できるお座敷―と称される(個人的にはそう認識している、笑)某雑誌の、創刊30周年を記念して発行された一冊である。内容に関してはそのタイトルが示している通りなので措くとして、構成について一言すれば、国内…
「世界ノンフィクション全集10」で述べたように、筑摩書房のこの叢書は何度か改版されており、各版の間には総巻数や収録作品に異同がある。これも上の記事でご紹介したことだが、私の保有するのは1968(昭和43)年に世に出た全30巻のもので、その第12巻には次…
1923年に出版された「ゴルフ場殺人事件(Murder on the Links)」は、「スタイルズ荘の怪事件」「秘密機関」に続く、"ミステリーの女王"アガサ・クリスティの三作目の推理小説である。しかし、ここ日本ではそれほど知られていないように思う。邦題は原題の意味…
「箱男」は、1973年に新潮社より上梓された安部公房の作品で、今般私は、後に文庫化された版で読んだ。その前著、「夢の逃亡(1968年)」まではコンスタントに作品を発表してきた安部公房だが、上の刊行年と比較すれば分かる通り、両者の間には実に5年の間隙が…
「タイタンの妖女」は、「猫のゆりかご」「スローターハウス5」などの作品で知られるアメリカの小説家カート・ヴォネガット・ジュニアが1959年に発表した、二作目の長編小説である。なお、1976年の「スラップスティック」以降の作品では、"Jr."をとったカー…
マクシム・ゴーリキーという名が高らかに語られなくなって久しい。1892年、「カフカス」紙に処女作「マカール・チュードラ」が掲載されたのを皮切りに、1898年にはサンクトペテルブルクで短編集「記録と物語」が刊行され、時代の寵児としてアントン・チェー…
今般私の読んだ「山さまざま」は、「山の文庫」の一冊として1982(昭和57)年に朝日新聞社より刊行されたものだが、あとがきによると、この本には五月書房刊「山さまざま」(昭和34年)から12編、文芸春秋新社刊「山があるから」(昭和38年)から15編が収められて…
特に強く意図したわけではないものの、この全集は第1巻から順に、ほぼ日本近代文学史を辿る形でこれまで読み進めてきた。その第8および9巻は島崎藤村集、これらも書棚に並んではいるのだけれど、収録作品がいずれもかなりの長編で、オーディオに現を抜かしが…
アメリカのSF作家、オースン・スコット・カード(Orson Scott Card)の作品を初めて読んだ。カードといえば、映画化もされた「エンダーのゲーム」が有名なようだが、実は、個人的にはこちらも未読かつ未観だった。今般私が読んだのは1987年に発表された「第七…
西域―すなわち、古代の中国人にとっての自国西方にあるタリム盆地以西の国々、現代においては中央アジアとその周辺を含むさらに広い地域―は、古くから綿々と繰り広げられてきたドラマティックな歴史絵巻に加え、その中央を横断して通ずるシルクロードが人の…
1777年に生まれ、1811年に自ら拳銃で命を絶ったハインリヒ・フォン・クライストの生涯は、かのゲーテ(1749-1832年)のそれにすっぽりと包まれている。そして、そのゲーテらによって展開された疾風怒濤が落ち着きを見せ、変わってロマン主義の燦然たる曙光がさ…
1939年に発表された「そして誰もいなくなった」は、アガサ・クリスティの数ある推理小説の中でも最も有名な作品の一つに違いない。その一方、我が国で編まれたこのジャンルの代表的選集ともいえる、「世界推理小説大系」「世界名作推理小説大系」「世界推理…
集英社が1982年から翌年にかけて出版した「中国の詩人――その詩と生涯」は、副題が示す通り、詩そのものに焦点を当てるより、詩文を大きな拠り所としてその作者の生涯・人物像を明らかにすることに主眼を置いた選集と言えよう。全12巻には、李白・杜甫をはじ…
エリック・フランク・ラッセル(Eric Frank Russell)という名を聞いて、すぐにその作品が頭に浮かぶ人は、我が国においては決して多くないだろう。実は私も、今般、1964年に早川書房から発行された新書版二段組の本で、「超生命ヴァイトン(Sinister Barrier)…
「釣魚名著シリーズ」は、1970年代の半ばから80年代にかけて二見書房が刊行した、釣りにまつわる文章をあつめた叢書である。同出版社には、他に「山岳名著シリーズ」「海外山岳名著シリーズ」などもあるが、この内の前者がどうやら嚆矢らしい。漁師以外のプ…
原島鮮(著)「初等量子力学 」については、量子力学の入門書として名著の誉れ高い一冊であることは前々から承知していた。しかし、既に書棚に並んではいるものの熟読には至っていない同分野に関する書籍も何冊かあるため、これまで手にすることはなかったのだ…
「やし酒飲み」は、ナイジェリアの作家エイモス・チュツオーラの処女作にて、「アフリカの神話や民話が持つ奔放なイメージと生命力を見事に開花させた本書が発表されるや、ヨーロッパ文学界で絶賛を浴びた」というキャッチコピーに惹かれ、晶文社版を古書と…