岩波講座の世界歴史を二巻読んで、現在の私の頭にある歴史知識は、遺憾ながらこの大部な叢書に取り組むには質・量とも全くもって不足であることを痛感し、些かでもそのギャップを補うべく、この「西洋史通論」を書棚の奥から引っ張り出して読んだ。
奥付によると、同書の初版が世に出たのは1963年だが、1974年に重版となって以後も増刷が重ねられ、当方の手元にあるのは1991年発行の一冊である。
版元は大阪の創元社、SFやミステリー作品の出版で知られる東京創元社との関係は――と調べたら、後者はここからのれん分けして独立したということだ。
同書の企図は、大学の一般教養課程で講じられる歴史のテキストの提供であり、これは序文に明記されていると同時に、先史時代から現代――といっても20世紀半ば――までの西洋史を250ページにまとめたその内容構成から直接窺うこともできる。
しかも、論述される歴史は、社会・政治・経済から文化にまで亘っており、上に「まとめた」とは書いたものの、正直な感覚としては「詰め込んだ」印象を否めない。
同書の性格上、これは致し方のないところであろうけれど、少々気になるのは、個人的にそれなりに馴染んでいる文化史の部を注視すると、些か違和感を覚える記述が目に付くことである。
歴史学に占める文化史の比重がさほど大きくなく、これを専門としていない執筆者の手になったためだろうか。
ともあれ、西洋史における重要な出来事および人物はほとんど網羅されており、またそれらの大域的繋がり・流れも捉えられるよう配慮されている良書であることは確かだと思う。
ただ、これを一度通読しただけで西洋史を「理解した」とは、よほどの記憶力と理解力を具えた御仁でない限り言えないに違いない。
そしてもちろん、私はそのようなお頭に恵まれてはいないので、これでもう、何の不安もなく岩波の世界歴史に当たれる――とは行かない。
しかしまあ、「世界ノンフィクション全集」のような書籍も併せ読み、概略と細部を何度も行きつ戻りつしている内には、相当な知識が蓄積していくはずだ。
凡人にはそれしか道はないし、それで良い。