蓼科高原日記

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世界ノンフィクション全集13 フランス革命、ペトログラード1917年、中国の赤い星

筑摩書房の世界ノンフィクション全集第13巻は、同前12巻に続いて人間社会における歴史的大変革を主題とした次の三つの文章を収録している(()内は著者)。

 

フランス革命(ルイ・マドラン)
ペトログラード1917年(N.N.スハノフ)
中国の赤い星(エドガー・スノウ)

 

20221206-世界ノンフィクション全集13

 

しかし、前巻で紹介された動乱がいずれも成功裡には終わらなかったのに対し、この第13巻で取り扱われているものは、改めて言うまでもなくいずれもそれまでの古い体制を打破するに至ったという明確な対照がある。

 

それゆえ、これらを総称して世界三大革命と称しても強ち誤りではないだろう。

 


18世紀の終わりに勃発したフランス革命を除き、残りの二つは前世紀はじめの出来事であるが、著者の世代は近接しており、記されたのもすべて20世紀前半と隔たってはいない。

 

それら著者については、個人的にいずれも記憶にない名であったが、巻末の解説に加えネットでも少々調べてみたところ、マドランはフランスの歴史学者、スハノフはロシアの政治評論・文筆家で、スノウはアメリカのジャーナリストであることを知った。

 

 

 

 


これを念頭に今一度内容を思い返すと、なるほど著者の職業・立場および事件との関わり方からの自然の帰結であろう、各作品にそれぞれ独自の特色が現れている。

 

具体的に言えば、「フランス革命」は過去の事象を資料に基づいて客観的・考証的さらに批判的に検証論述しているのに対し、スハノフはモスクワ大学在学中にエス・エル党に入って活動したことが示す通り、ロシア革命においても単に外から眺めるのではなく、自らその渦中に身を投じた人物であることから、「ペトログラード1917年」はより直接的な臨場感あふれる既述となっている。

 

そして最後の「中国の赤い星」は、さすがジャーナリストの手になる文章だけあって、一見すると事実を正確に伝えているように感じられるものの、読んでいるうち中国共産党および毛沢東をはじめとする幹部連の礼賛が徐々に鼻につきはじめて来た。

 

これすなわち、暗い側面からは顔を背け、ひたすら明るい部分に目を向けているためで、しかもそれは、自らに取材の便を図ってくれたという、ただそれだけの理由による印象を禁じ得ないからだ。

 

実際、スノウは第二次大戦後の1947年に「スターリンは必ず平和をもたらす」などという珍文を世に問うたこと、および最後には中国共産党に失望落胆したが、その因は自分の知人が中国で逮捕され拷問を受けたという、極めて個人的な利害関係にあったという点を鑑みるに、この印象はますます強まるのである。

 


ともあれ、前巻もそうだったが、大きな社会動乱に関する文章を読むと、初めは小さな、しかし真摯な希望や理想だったものが、次第に大きく強くなるそのダイナミズムに圧倒される。

 

その一方、その強大化につれ、当初の純粋なものが次第に汚濁し、野放図な欲望へと変ずる姿を目にすることとなり、酷く幻滅させられる。

 


真の救世主の出現など、やはりなかなか望むべきことではないようだ。