雪は激しくなり、日も暮れてきて、窓外はまったく暗鬱な風景へと変わった。
物理的な暗さを言えば、周囲にほとんど人工的な明かりのない我が家の方がずっと深いのだが、これはそもそも人のいないためで、人が少なからず住んでいるであろう集落に、明かりの点っている家がほんのぽつんぽつんと見えるだけなのは何とも寂しいものである。
中には空き家らしい建物もないではないが、立派な構えの屋敷でも灯を見せているのは稀で、まだ多くの人が勤めから戻っていない時間帯にしろ誰かは残っていそうなことを思い合わせると不思議な気がした。
しかしながら、個人的にこの情趣は嫌なものではない。
三時間乗車を続け、越後川口へ着いた時には辺りはすっかり闇となっており、湿った雪がまだ降り頻っていた。
また十五分ほど待ち、現れたのは、上越線の四両ほど連なった長い列車で、仕事・学校帰りの乗客を少なからず乗せていた。
ここまで来れば長岡まではあと四駅、とはいえ駅間は長いので三十分弱を要して、漸く今回の目的地へ到着である。
ホームへ下り立ち、改札を抜けると、先ほどまでとの対照で駅ビル内の照明が目に眩しい。
これから観光を、という時刻でもなし、はじめに書いたように今回それは端折るつもりだったので、あとは宿泊先へ入り、夕食を摂るだけ。
さてその夕食はどうしよう、しかし取り敢えずチェックインを済ませてしまおう、と駅の構外へ出た時、思わず立ち竦んでしまった。
暗いのだ。
長岡については中堅の地方都市との認識があり、実際、駅前には決して小さくないビルが立ち並んでいるのだが、逢魔が時に飯山線沿線に見た光景同様、そこからの明かりの放射が極めて乏しいのである。
この眺めに接して意気消沈、チェックインした後、どこか適当な飲食店でも探してみよう――という少々弾んだ気持ちは萎んでしまったものの、現実問題として腹は減っているので、ここでも出発地点と同じく何か買ってそれをホテルで摂ることに方針を変えて駅ビル内へ踵を返した。
CoCoLoというショッピングモールへ足を踏み入れてすぐ、とんかつ、おこわ、さらに中華のテイクアウト店が見え、既に宵の時間帯も過ぎていたため、どの店に並んでいるものもすべて三割引きとなっていたことから、これも一つの縁だろうとこの中から選ぶことにした。
昼の弁当も中華だったことを考え、まずこれを選択肢から外そうとしたのだけれど、とんかつとおこわはいずれも本来千円を超えるもので、割引されてもそれなりの値である。
一方の中華は値引きされて五百円ほどになっており、万一外れ籤だったとしても諦めがつくだろうとの思いもあってこれにした。
袋は必要ですか――と言うイントネーションからすると、売り子の姉さんは中国人らしく、となると調理も同国人の手による可能性が高い。
その弁当は勿論、並んで残っていた単品料理もなかなか美味そうで食指を動かされたが、余らせては勿体ないと自重、そしてこれの正解だったことが後に分かった。
こうして夕食の調達を終えたので、あとは宿泊先のホテルへ向かえばよい。
案内には「駅から徒歩1分、アーケード伝いなので雨に濡れることなくアクセスできる」といった文言が書かれていたので、駅から出ればすぐ、最上部などにホテル名が照明されてすぐ目に付くだろうと考えていたのだけれど、これが見つからない。
そこで仕方なく、アーケードというキーワードに従い、それらしいものを辿ったところ、確かにすぐ、しかし気持ち的には漸く、この夜の宿泊場所に到着した。
のはいいが、これもイメージとは大きく違っていたのである。
ウェブ上の画像ではそれなりに大きなホテルに見えたのに、目の前に立つのはかなり細長いビルで、本当にここだろうかと訝りながらも、ともかく中へ入ると、ホテル名とフロントは二階との表示があり、間違いはなかった。
フロントで予約した内容を伝えると、やはりコロナウィルスワクチン接種済証の提示を求められ、持参したこれを示して無事チェックイン完了、と部屋へ向かおうとしたら、旅行支援の一つとして、平日宿泊の場合二千円分のクーポンが付与されるとのことで、これを渡された。
ただ、この近辺では駅構内のドラッグストアかコンビニエンスストアくらいしか、利用できる店舗はないという。
エレベーターで部屋のあるフロアへ上がると、やはり10室ほど並んでいるだけのこじんまりしたホテルだが、これも個人的には嫌いではない。
さて、折角なので受け取ったクーポンも利用することにしたものの、翌日は朝一番にこの旅行の本来の目的である所用を済ませ、その後すぐ帰路に就くことになることから、使うなら今夜の内――と、部屋へ入って荷物を置き、クーポン利用に必要なアプリをダウンロード・インストールしてまた駅へと戻った。
夕食は調達済み、次の朝食は宿泊に付けてあるので、足りないのはデザートくらい――と、コンビニでチョコレートケーキやワッフルを籠へ放り込んでいったが、これで二千円を使い切るのはなかなか難しく、欲を出して翌日の昼食も――とサンドウィッチとおにぎりを追加して、若干の残額は店へのチップとした。
フロントで部屋の鍵を受け取る際、街が酷く暗いようだが、当今の燃料費高騰によりイルミネーションなどを控えているのか――と尋ねると、それも一つにはあるが、住宅が郊外へ広がるのを追うように飲食店や商業施設も駅から離れてしまったため――ということだった。
さて、夕食として誂えた中華弁当、見た目は平均的な分量に見えたが、実際はなかなか食べ応えがあり、完食するとこれ一つで苦しいくらい満腹となってしまった。
味の方も全く申し分なく、余りある満足感を五百円で得る結果となった。
こうして腹がくちくなると、久しぶりに長時間列車に揺られての疲労が急に噴き出し、酷い眠気を催したため、その夜は十時半には床に就いてしまった。
明けての朝食は先に述べたようにホテルのレストランにて、いわゆるバイキング。
客数の関係上、並んでいる料理の品数はさほど多くはなかったものの、味はここでも申し分なし。
特に、ごはんの美味さは、決して「ここは米所」という先入観によるものではなかった。
あとは八時早々にホテルをチェックアウトし、用事を滞りなく済ませて帰路を辿り、無事帰宅した。
ここにもまた愉しみが少なくなかったのだが、既に思いの外長くなってしまったのでここで切りたい。
(了)