帯広の朝も早く始まった。
前夜に食した豚丼が美味かったので朝食もこれを――と思っても、朝、それも早朝から開いているところはほとんどない。
そんな中、「ぶた八」という店が帯広駅構内で弁当を販売していることを知り、散歩がてら買いに行ったのだけれど、ネット上の情報では六時から営業となっているのに閉まっている。
まだ雪が残り日の出も遅いこの時期、恐らく営業時間も七時頃からに変わっているのだろうと想像できたが、それまで待てば確実に開くわけではないし、待ち時間も決して短くなかったことから諦め、おとなしくコンビニでパスタとサラダを購入してホテルへ戻った。
この日の旅程は(も?)単純で、根室本線の列車二本を帯広―釧路、釧路―根室と乗り継いで終点の日本最東端有人駅へと至り、そこに宿泊するというものだ。
運行列車の本数、および乗り継ぎの関係から、ここも敢えて朝早く発つ意味はなく、10時26分帯広駅始発の列車に乗ればよい。
その前に駅周辺を少し歩いてみるのもいいだろうと早めにホテルを後にして一旦駅へ入ると、「ぶた八」の売店が開いており、しかも早朝価格として値引きされていたため、昼食によかろうと購入。
その際に聞いたところ、やはりこの時期は朝七時からの営業としているそうだ。
乗車する列車の改札が開始されるとのアナウンスを受けて改札口へ向かうと、千歳駅から度々見かけたあのスーツケースが前方に目に入った。
昨日、帯広駅に着いた時に列車から出るのを見なかったので、てっきりその手前で下車したか、折り返して札幌方面に戻ったものと思っていたのに、またまたの同道である。
釧路行列車は二両編成、土曜日なので混雑するのではないかとの懸念は杞憂に過ぎず、やがて車窓に現れるであろう海を眺めるに好適な座席に腰を据えることができた。
乗車して一時間ほど、いつ車内が混雑してくるかわからないので空いている内に昼食を済ませてしまうことにして豚丼弁当を開いた。
一見するとかなり味が濃そうな印象だが、実際はごくあっさりしており、添付のタレをかけ、さらに山椒を振るとちょうどよい。
これにより「ぱんちょう」とはまた異なる、甲乙つけがたい味覚を愉しむことができた。
この辺りからだったろうか、視界の隅に入っていた私と同年配くらいの御仁が、駅に着くたびに席を立って駅名標の写真を盛んに撮り始め、もしかしたらと嫌な予感が胸に兆した。
悲し……嬉しくもやがてこれは正鵠を射るものだったことがわかり、以後、先のスーツケース氏と同じく三日に亘ってほとんどの列車で同じ顔を見ることになったのである。
列車は厚内駅で7分ほど停車した。
この時間を利用して弁当の空き箱を捨ててこようと、駅舎へ向かう跨線橋に上がると、前方に海の瞥見されるなかなかよい景色が広がっている。
これは戻る際に絶対に撮らねばと思いながら駅舎に入ったが、あいにくゴミ箱は置かれておらずそのまま引き返して来ると、停まっている列車が二本に増えていた。

ということは、先ほど少し待てば、乗ってきたのとは別の列車が向こうの線路を辿ってくる姿を見、そして撮ることができたわけだ。
個人的に、列車そのものにはさして惹かれはしないのだけれど、この場合は捨てがたい点景となったことは間違いなく、それを逃したのは少なからず残念だった。
しかし列車なしの画も決して悪くはない。

厚内駅を発車して間もなく、列車は海岸線に出、その後時折内陸へ戻りながらも概ね太平洋を眺めながらの道程となった。
庶路駅の先では「恋問橋」という床しい名の橋を、また続いて「大楽毛(おたのしけ)」という面白い名の駅を目にした。
前者については、気付いた時には車窓から去っており撮影できなかったのが残念だ。

午後1時過ぎに釧路駅に到着。
発車まで10分ほどあったが、次に乗る同駅始発根室行列車は既に入線していたので、真っ直ぐそこへ向かった。
車内に足を踏み入れるとやはり先客が少なくなかったものの、海を見ることのできる進行方向右の窓側席に幸いいくつか空きがあった。
ほッと安心して何気なくその一つに腰を下ろしたのはいいが、改めて窓に目を向けてみると、前方の窓との間のフレーム(?)にかなり視界を狭められていることに気付き、一つ後ろの席の方が――と思って立ち上がった時には時すでに遅く、後から乗った人に占められてしまっていた。
もっとも、車窓を眺められないわけではないので努めて気を取り直し、発車を待つ。
釧路を出て四つ目の駅、上尾幌へ差し掛かった時、ぼんやりと眺めていた車窓に現れた風景に何となく北海道の昔の姿を感じ、写真に残しておこうとしたのだけれど、スマートフォンをどのポケットに入れたのか忘れて取り出すのに時間を食い、果たせなかった。
門静駅の先から厚岸湾、さらに厚岸駅を過ぎると厚岸湖、それぞれの水を、いずれも短時間ながら目にすることができ、さらに別寒辺牛(べかんべうし)湿原の不思議な光景も心に焼き付けることができた。


根室半島に入って別当賀を過ぎると、風の強いだろうことを髣髴させる雪原が現われ、続いてその向こうから海が近づいて来た。
間もなく東根室との車内アナウンスが流れると、乗客の多くが席を立ち、人で溢れんばかりになっているその駅へ、到着すると同時に下りていった。
なぜこれほどの人が――との疑問は、この駅が数日後に廃止されることを思い出して解消した。
乗客のまばらになった列車は再び走り出し、すぐに終点根室駅に到着した。
この日泊まるのは「Guest House ネムロマン」。
所在地を確認すると根室駅から北へ1km強なので歩いて向かい、途中にあった「マルシェ・デ・キッチン」('デ'ではなく'ド'ではないかと思うが……)に立ち寄り、夕食その他を入手して宿に着いたのは午後4時半。
チェックインを済ませて簡単な説明を受け、荷物を今夜の寝床に置いてすぐにまた表へ出た。
この地での目当て、根室湾の海に沈む夕日を見るためである。
函館、小樽の海に臨んだ時はいずれも悪天候に苛まれたが、ここ根室の海はどこまでも穏やかで、テトラポットに座って20分ほど、太陽が水平線に近づき、やがて没する様子を遍く眺めることができた。

