台湾へは、シンガポール航空グループのLCC(Low Cost Carrier=格安航空会社)の一つであるScoot(スクート)を利用し、成田空港から桃園空港へ飛んだ――
と書くと至極簡単な道程なのだが、実際はこれがなかなかの大仕事だった。
飛行機の発時刻は12:45。
なかなかいい時間帯のフライトであるが、長野県茅野市から行くとなると、早朝に家を出ても辿り着くのは上の時刻の2時間ほど前になってしまい、これに去年からの旅行で度々交通機関の乱れを経験していること、さらに久々の海外旅行で手続きに手間取るかもしれないことを重ねて考えると、時間的余裕が少々心許ない。
そこで、中央道を走る夜行の高速バスで成田へ向かうことにした。
これに乗っていれば空港へ行き着けるのだが、時刻表を見ると都内を横断するのに多くの時間を費やすことがわかり、時間的余裕は十分に確保したので飛行機の搭乗には問題ないものの、渋滞に巻き込まれてノロノロ進むのは気分的によくないことから、京成上野で降りてそこから列車を使った。
料金的にもこの方が有利ということもあった。
余裕のある時には得てしてこういうものだろうが、心配した遅延はなく、成田空港に着いたのは朝の7時過ぎ、搭乗までは各手続きを考えても長い時間が横たわっていた。
Scootでも出発の48時間前からウェブチェックインが可能で、事前にこれを行った。
チェックインを行ったのだから、本来ならそこで座席が決まり、電子的な搭乗券(eチケット)も発行されるのだろうけれど、なぜか「ドキュメントチェックが必要なので搭乗当日に空港のカウンターへ来い」といったメッセージが出て終わってしまった。
これは一体どういうことだろう――との疑問が頭を擡げてネットで調べてみると、時折こういうケースに陥ることがあるらしく、特に打つ手もないようだったので、一抹の不安を胸に抱いたまま2日間を過ごし、搭乗当日、まだオープンしていないカウンターで上の事情を説明したところ、やはり改めて手続きが必要、しかし並ぶのは待ち行列の短いラインでよい――とのことだった。
ネット上には、復路の航空券がないとウェブ上でチェックインが完結しないとの情報が見られたが、当方の場合はこれに該当せず、どうも共同運航便(コードシェア便)となったからのようである。
因みに、事前のウェブチェックインではなく、当日空港で自動チェックイン機(kiosk=キオスク)による手続きを行えば、搭乗券を手にできるとのことだ。
ともあれ無事に搭乗券を手にすることができ、保安検査、出国審査に進み、幸いいずれも滞りなく通過。
機内預けの荷物と税関申告を要する物はともになかったので、手続きはこれで完了、あとは搭乗を待つだけとなった。
しかしまだ搭乗までには短くない間がある。
空港へ着いてすぐ、マクドナルドで軽く腹を作っておいたが、それを遣り過ごす意味もあってぽつぽつ開き始めた店を適当に見繕って少し早い昼食を摂った。
時間に追われて焦るのは嫌だが、今般のように余裕のあり過ぎるのも酷く疲れるものだ。
他のLCC同様、スクートも座席指定には追加料金が必要となる。
4時間ほどのフライトなので、わざわざ――との気持からこれを省いたところ、割り当てられたのは三列並んだシートの中央、もっとも有り難くない座席となってしまった。
そのため機窓風景(?)も見られなかったが、離陸前後の加速感や浮揚感を久しぶりに味わうことはできた。
台北の桃園国際空港第一ターミナルへは大きな遅れもなく到着。
事前にウェブ上で入国カードを提出しておいたので、入国手続きも非常に速やかに済み、晴れて台湾の地に立つことができた。
ここでも荷物の受け取り、税関手続きの必要のなかったのは大きい。
空港ですべきことは、まず台湾ドルの調達である。
これは事前に調べて良いだろうと判断した、台湾銀行のATMを利用してのクレジットカード(楽天カード)によるキャッシングで行った。
次いで予め予約しておいたSIMカードの受領。
そのカウンターを見つけるのに少々手間取ったが、スマートフォンを渡すとSIMカードの装着から設定まで行ってくれ、無事通信環境を手にすることができた。
さらにもう一つ、悠遊カード(EasyCard)の入手とチャージがある。
これが非常に便利なものであることはその後十分に実感したが、同時にチャージに関しては色々制約があって融通の利かない印象を持つことになる。
何より初めに、入手したところでチャージができなかった。
それを補うためか、台北駅までのMRT乗車券(トークン)とカードとのセットが販売されており、若干ディスカウントされているようだったので、チャージしたうえ悠遊カードでMRTに乗ろうとの心づもりを変え、これを購入してMRT乗り場へ向かった。
人の激しく行き交う路線だけに結構な混雑だったが、幸い座席を確保して台北まで座って行くことができた。
先の台湾ドルの引き出しの際、これからお世話になるはずの少額100ドル札を混ぜるのを忘れてしまったので、悠遊カードへのチャージとともにこれを少し財布に入れておくことにした。
それには1000ドル札で600ドルをチャージすれば一挙両得となるはずだが、駅の自動券売機ではお釣りが出ないのである。
コンビニなどではチャージ額を指定して釣りを得られる。
もっとも、コンビニならちょっと買っておきたいものもある。
そこで少々歩いた末に店を見つけ、台湾の水道水は飲用に適さないとのことなのでミネラルウォーターその他を買うとともに、悠遊カードへのチャージを依頼して目的を果たした。
このミネラルウォーターは安価に入手できると思っていたのに、500mlで100円ほどと日本より高いくらいなのには驚いた。
予約しておいた初日の宿は「Single Inn Taipei」。
MRTブルーライン府中駅の近くなので台北駅からは少し距離があるものの、個人的には却ってこういう場所の方が好もしく、また曲りなりにしろ個室に安く泊まれ、大浴場も具えているとのことで選択した。
実際、これらはほぼ売り文句通りだったのだが、客室は会議室ほどの中が20くらいに細分された形で、隣の部屋とは完全に壁で隔てられているものの、通路との隔壁は天井まで届いていない。
そこへ入ってまず五官に届いたのは咳の響きだった。
しかもそれは、咽たりして出る一過性のものではなく、継続的、しかも頻発する病的な咳である。
そういえば、台湾へ着いてから、あちこちでこの音を耳にした――ということに気付いて嫌な予感がふと胸に湧いたが、哀しいかなこれが後に現実となる。
しかしその時はそんな思いを払いのけ、目当てとしていた板橋南(正確にはさんずいに南)雅觀光夜市へ向かって既に暮色の濃くなっていた町へと出かけた。
この日の観光はこれだけである。
しかし、移動と待ちの続いた後ということを考えれば致し方ないだろう。