旅も六日目、今日は台南から嘉義へ台鉄で移動し、そこから阿里山林業鉄道(阿里山森林鉄路・阿里山鉄道)で奮起湖まで往復する。
この鉄道は自然災害により長らく一部区間が不通となっていたが、昨年15年ぶりに全線復旧を果たし、インドのダージリン・ヒマラヤ鉄道、チリ―アルゼンチン間を結ぶアンデス山鉄道とともに世界三大登山鉄道に数えられるその面目を見事回復した。
その本幹と言うべきは嘉義から阿里山までの本線で、誰もがこの区間を辿りたいと思うためだろう、予約を取るのが非常に難しいという。
そこで事前に公式Webページで色々と空席検索をしてみたところ、予約受付の開始される乗車日14日前(乗車日が土・日曜日の場合は2週前の金曜日)の日本時間7時にアクセスしてもほとんどの場合満席となっていることが判明。
ただ、本線途中駅の多林までの阿里山號1車次は比較的席を確保しやすいこと、および乗車日前日(の特に朝と宵)になると、阿里山まで行く阿里山號5車次にもキャンセルが結構出ることがわかった。
そして実際の乗車日の予約を試みた結果はというと、阿里山號5車次については敢え無く敗退、一日に4本ある列車の内、復路となる十字路駅から奮起湖駅を経て嘉義へ戻る阿里山號2車次にだけ辛うじて空席があり、支払いは翌日の24時までにすればよいということもあって取り敢えず予約を入れた。
因みに、それまでに支払いをしないと自動的に予約はキャンセルされる。
一方の往路については、バスで奮起湖へ向かうこととし、同じ鉄路の列車に予約キャンセルの出たらこちらに乗り換えるのもよかろうと考えた。
このバスの予約は現地の台湾でしかできず、列車ほど混雑はしないだろうとのんびり構えて旅行を進め、乗車2日前、台東のファミリーマートのFamiPort端末でこれを行ったのだが、奮起湖での滞在時間を確保できる便は満席となってしまっていた。
こうなると頼みは列車のみ、慌てて上の予約ページにアクセスしたところ、上手い具合に阿里山號1車次に空席が出ており、何とか行きの手段を確保できた。
実は、未練がましく阿里山號5車次にキャンセルが出るかもしれないと並行して注視していたのだけれど、結局これは叶わなかった。
この鉄路には、本線の先に祝山線・神木線といった支線もあるので、これらを含め全線乗車は別の機会に譲りたい。
これに間に合うよう、台南駅を7時過ぎに出る区間車(普通列車)に乗車し、ほぼ8時半に嘉義駅に到着。
台鉄嘉義駅1番ホームの外れにある阿里山森林鉄道の乗り場に行くと、既にかなりの乗客が集まっていた。
当然ながらおそらくそのすべてが観光客、しかし中国系以外の姿・言葉はほとんどなく、私の他には欧米人が二人見られただけだった。
急勾配を上るため、ディーゼル機関車は列車の後端に接続されている。
客車内の座席配置は、線路幅762mmの狭軌とあって1+2列のシートが、それぞれ進行方向に向かって右・左に配置されており、これは復路でも同じだった。

予約で割り当てられたのは一人掛け席だったが、通路を挟んだ二人掛け席が空いていたので、以後適宜移動して南国らしい車窓風景を眺めながら道中を辿った。
嘉義を出て三つ目の停車駅、しかしそこまで40分ちょっとを要する竹崎は阿里山森林鉄道の見所ともいえる山岳区間への入口駅で、かつて機関車の付け替えが行われた名残の側線が残っている。

そこからさらに30分ほど走ると列車は樟腦寮駅に着き、ここから同じくこの路線の売りである、3重スパイラルと8の字ループで高度を稼いで独立山を越える区間となる。
観光列車らしく、これらのことが中国語・英語、そして日本語でアナウンスされるのだが、その音質が十分でない上、列車の走行音の大きさもあってあまりよく聞き取れず、「樟脳寮駅を眼下に三度見ることができる」というのは耳に入ったので注意して車窓を眺めたけれど、それらしい建屋は認識できなかった。

独立山駅に着いてみるとホームに人が溢れている。
まさか皆この列車に乗るのだろうか――と思ったらその通りで、瞬く間に空席がなくなるどころか立ち客で通路も一杯になってしまった。
多少窮屈ではあるものの、ともあれ席があるのだから贅沢は言うまいと身を縮めておとなしく車窓を眺めていると、次の駅だったかその次だったか、それら途中乗車の客はまた一斉に下車して元ののんびりした車内となった。
どうやら道程の一部に列車を組み込んだハイキングの一行だったようだ。
11時半、奮起湖で嘉義からの乗客もほとんどが下車した。
復路の列車の出るまで3時間あるので、荷物をコインロッカーに預けようとしたのだけれど、今一つ使い方がよくわからない。
同じ列車で来た二人の欧米人も同様だったらしく、諦めて去ってしまった。
こちらは台湾人旅行者の手順を観察するとともに、彼らの助けもあって何とか荷物を収納。
その手順は――というと、未だ体調が思わしくなく、頭がぼうっとしていてよく覚えていないのだが、荷物を入れたロッカーの番号を入力して料金を投入し、出力されるレシートを受け取る――といった流れだったように思う。
荷物を取り出すときはそのレシートに記載された解錠番号が必要となるので、無くさないよう注意。
奮起湖老街は、駅から直接伸びている。
そのごちゃごちゃと乱雑な感じは確かに台湾の古い町並みらしいものの、ここも十分などと同じく店の呼び込みの忙しい完全な観光地と化しており、かつてはそうだったであろうゆったりとした風情は失われてしまっている。
そこを早々に通り抜け、これも名高い年経た巨木の霊気を身に受けようと遊歩道へ足を向けたところ、巨木に至る道は生憎どこも整備中で入ることができなかった。
それならばと、老街よりさらに古い老老街を目指し、案内板とGoogleマップを参照しつつ遊歩道を辿った。
ここまで来ると観光客の姿はほとんどなく、味わい深い情景に接することができた。
茶店に佇んでいたその少ない数人と目が合い、「お互い好き者でんなァ」といった共感が通じたのでこちらもちょっと一息と思ったが、コーヒー一杯約600円という値札を見てやめた。
彼らの足元にも猫が一匹、例によって転がっていた。

老老街を後にし、林の中の遊歩道をさらに逍遥して老街に戻る。
ここにもその名を冠した名物弁当があるのは知っていたけれど、どうも食欲がなく、口にしてまた失望するのではないかとの懸念もあったので購入は見合わせた。
代わりに咽喉の渇きだけは潤しておこうと、時代がかった婆さんの座っている店で愛玉子(オーギョーチ)を注文したら、その婆さんは動かず、東南アジア系らしい不愛想な娘が裏から現れて面倒くさそうに手渡してくれた。
こんなことなら、少々煩くとも愛想のいい表通りの店で飲んだ方がよい。
ふと、冷たい水物などを腹に入れてしまったが大丈夫だろうか――との不安を覚えたが、幸い何事もなく済んだ。
復路の列車は急勾配を駆け下るのに、嘉義までの所要時間は往路と10分ほどしか違わない。
ただ、揺れは激しく、ぼんやり窓の近くに頭を寄せていて何度かガラスに打ち付けてしまった。
往路のバスが取れず、登りの列車で車窓を眺められたのは怪我の功名だったかもしれない。
途中スコールのような激しい雨の襲来をみたが、長くは続かず嘉義に着く前には綺麗な青空に戻っていた。
