旅の十日目、カンチャナブリからアユタヤへ鉄道で向かう。

七時過ぎの列車に乗るべく余裕をもって駅に着いたが、列車は少し遅れて到着した上、発車時にも支障があったらしく駅を出たのは定刻を二十分ほど過ぎていた。
バンコクに着いてからアユタヤへは、できればクルンテープ・アピワット中央駅(バンスー中央駅)発の急行に乗りたいと考えたのだけれど、ナムトク線の運行が時刻表通りでも接続がかなり厳しく、この遅延に遭遇してほぼ諦めた。
しかし道程を辿るにつれ遅れは解消していき、これならもしかすると――と思いながら終点トンブリの一つ手前の駅で停車したとき、反対側の車窓にどこかで見覚えのある高架駅が見え、次の瞬間、カンチャナブリへの往路でトンブリ駅へ行くために降りたMRTのバンクンノン駅らしいことに気付いた。
実際にバンクンノン駅なら、ここで降りてMRTブルーラインに乗ってクルンテープ・アピワット中央駅へ向かえば、上の急行列車に十分間に合う。
けれどももし違っていたら――との逡巡があり、結局降車できなかったが、後で確認したらやはりバンクンノン駅だった。
こうして好機を逃した後、トンブリ駅で下車し、ともかくバンクンノン駅の方へと足を踏み出したところ、同じ方向に頭を向けたソンテウが停まっており、確認したらトンブリ駅へ行くというので乗り込んだ。
往路同様、実にタイムリーだったが、それだけ多くのソンテウが町を走っているということだろう。
そこからMRTでバンスーまで行き、接続する国鉄駅の窓口でアユタヤ行き切符を求めると、20バーツと引き換えに渡された切符には座席番号が印字されている。
普通列車に指定席はないはずと思って改めてよく見ると、できれば捕まえたいと考えていた急行列車の切符、色々と気は揉んだが、結果的には希望が叶ったわけだ。

列車は満席。
そんな中、通路を挟んだボックスシートにふんぞり返っているおっさんがいた。
えらく態度がでかい奴だな――と思っていたのだけれど、列車がしばらく走って車掌が検札に現れるとこそこそ席を立って乗降口の傍へ行き小さくなり、周りの乗客に愛想まで振り撒きだした。
どうやら指定券を持っていなかったらしい。
アユタヤには昼前に到着した。
ここでの宿は地図によるとパーサック川に沿って北へ2kmほど、先ずはそこまで歩こうと渡し場に向かって足を踏み出した。
名立たる観光地だけあってすぐに集ってきたトゥクトゥクの客引きを、はじめは要らない要らないと手を振りながら避けていたのだが、ここまでそれなりに気疲れして歩くのが億劫になった。
さらに、名所が広範囲に分散しているアユタヤでは、宿へ入っても徒歩ではその近くのごく限られたものしか見られないだろうと考えていたのだけれど、これを頼めば可能性が広がる、偶にはしっかり観光らしいことをしてみてもいいような気持ちになって来た時、3時間の貸し切りで本来900バーツのところ400バーツでどうかとの声がかかった。
これだけの時間があれば主な見所をざっくり観た上で宿にも入ることができる。
アユタヤのトゥクトゥクには観光客を狙ったぼったくりが多いとの記事をガイドブックで目にしていたので少々懸念はあったが、ドライバーは人の良さそうなおば――お姉さんだったので、大丈夫だろうと踏んで乗ることにした。
主な名所の画像をプリントした一枚のボードを示され、その中から行きたい所を選べと言われたものの、上に述べたように元々観光は意識していなかったため選択に困り、取り敢えずと指さして訪れたのは、ワット・ヤイ・チャイ・モンコン。
もっとも、これも後で確認してその名を知った。

この寺院は入場料が20バーツと安かったこともあり、中へ入ってそれなりの時間をかけて見て回った。
駐車場へ戻ると、黄色いトゥクトゥクはきちんと待ってくれており、さてお次は――と同じように他に五ヵ所の寺院や遺跡を巡った。




ただ、これらはいずれも入場料が確か80バーツと、深い興味を有していない身には高額に感じられたため、外部から眺めるだけに留めた。
もっとも、それゆえに多くのものを目にすることができたわけで、個人的には思わぬ観光となり満足して最後に宿まで送ってもらった。
さて、トゥクトゥクの料金の支払いだが、一体いくら請求されるのだろうと懸念しながら、ちょうど手元にあった400バーツを手渡したところ、にっこり笑って受け取ってくれた。
こうなると無用な心配をした後ろめたさもあり、少しチップを加えておいても良かったように思う。

宿は往来から引っ込んだ川辺に建っており、屋上のベランダからそのパーサック川の光景を見渡すことができる。
一方、部屋にエアコンのないのは先のカンチャナブリの宿と同様ながら、水上ではないせいか暑さは些かきつい。
しかし一泊約1200円という料金を考えれば贅沢というもの、十分納得できる宿だった。
既にこの地での観光は済ませたので、シャワーを浴びて上のベランダでパーサック川を暫く眺め、陽が傾いて暑さの和らぐのを待って夕食を認めようとまた表へ出た。
ガイドブックの地図で、北の方すぐ近くにナイトマーケットが見られたので取り敢えずそっちへ足を向けたが、そこに着いてみると確かにそれらしい場所はあったものの、営業している店舗や屋台はまったく見当たらない。
時間が早かったのか、その日偶々閉まっていたのか、それとも廃止されたしまったのか……
その時は分からなかったが、やはり廃止されてしまったことを後で知った。
特にそれを目当てとしていたわけでもなかったので、その入り口の周りに並んでいた屋台でタイの伝統料理の一つであるパッタイをテイクアウトして戻りがてら、宿に通じる路地を行き過ぎたところにもう一つある、こちらはぽつぽつと店が開き出したナイトマーケットを冷やかした。
その中に美味そうなロティの屋台が目に付いたので、デザートと翌日の朝食用にそれぞれミルク・ロティとロティ・ティッシュを購入。
夕食は無論、屋上で摂った。
