「釣魚名著シリーズ」は、1970年代の半ばから80年代にかけて二見書房が刊行した、釣りにまつわる文章をあつめた叢書である。
同出版社には、他に「山岳名著シリーズ」「海外山岳名著シリーズ」などもあるが、この内の前者がどうやら嚆矢らしい。
漁師以外のプロフェッショナルな釣り師などというものはまだほとんど存在しない時代に編まれたということもあり、釣魚名著シリーズに収められているのは、さまざまな分野で活躍した釣り好きな著名人の手になる文章で、随筆・記録・創作など、作品の種類も多岐に亘っている。
ところで、現在「釣魚名著シリーズ」としてまとめ称されている書籍は全17巻であるが、その第1巻と銘打たれた、笠木實「魚狗(かわせみ)の歌」が1974年2月に世に出たにもかかわらず、すぐ翌月に出版された山村聰「釣ひとり」で体裁が変えられ、以後これを踏襲する形でシリーズが続き、結果、「魚狗(かわせみ)の歌」は同シリーズから外されてしまったらしい。
現在の同シリーズに「第〇巻」という表記のないのは、この出来事と何か関係があるのだろうか。
また、企画されながら未刊に終わった書籍も2つあるというから、もしかしたら当初は全20巻が想定されていたのかもしれない。
この辺りにどのような事情が存在したのか、それも少々興味あるところである。
さて、この「釣魚名著シリーズ」も、私は例によって不揃いのものを古書として入手し、既にそのほとんどを読了してきた。
今般読んだ一冊、「釣りのうたげ」の著者、室生朝子については、何ら知らなかったのだが、詩人・小説家の室生犀星の長女ということである。
その繋がりから文章を書き始め、上梓された作品も少なくないようで、特に身内ならでは目にすることのできた犀星のエピソードや人柄の紹介により、この文筆家に深い関心を持ち、彼の人物像を描き出したいと考えている人にとっては、貴重な情報源となっているようだ。
本書にも随所にそれに類する記述が見られるが、犀星に特別の興味は持っていない私でも退屈することなく読むことができたし、また、釣りをしない人にも、全編とは言わず、楽しめる部分は随所に見出せるのではないかと思う。
気持ちの落ち着いている時、肩肘張らずに読むには好適であろう。