ALR Jordanのスピーカー「Entry S」を鳴らし始めてから2ヵ月強が経過し、ほぼその本領が発揮されるようになったと思うので、ここで本機の仕様および音質の印象をご紹介したい。
先ず、仕様について言うと、過去の記事「スピーカー ALR Jordan Entry S」にも書いた通り、サイズはW130×H215×D190(mm)と非常にコンパクトながら、自重は1本2.7kgあり、手に持つと結構ずっしりした感触を覚える。
上の画像の見せる如く、2ウエイ・2スピーカー構成で、搭載されているユニットはウーファーが11.5cm径のメタル・コーン型、トゥイーターの方は25mmソフト・ドーム型、そして背面にバスレフ・ポートを具えている。
その他、周波数特性は65Hz~23kHz、出力音圧レベル・インピーダンスがそれぞれ87dB・8Ωというのが公称の数値である。
なお、本機には、ツィーターを刷新した「Entry Si」、ウーファーを16cm口径のものに上げた「Entry M」、さらにそれをトールボーイ型にした「Entry L」といった姉妹機種のあることを老婆心ながら付記しておく。
続いて音質について。
そもそも、今般「Entry S」を購入したのは、パナソニックの業務用パワーアンプ「RAMSA WP-1100A」に繋ぐためで、その企図通り接続して音楽を再生したのだが、初めに耳に届いたのは何とも貧相な音で、正直愕然とした。
と言っても、これは質以前の問題で、従来と同じボリュームレベルにも関わらず、音量が全く足らなかったのである。
出力音圧レベルが87dBと、決して高くはないことは認識していたものの、それを考慮しても音が小さすぎる――と些か懸念を覚えながら、ともかくボリュームを上げて見たところ、そんな不安は一気に雲散霧消、溌溂とした音へと一変した。
さらに、その後数日、何度か鳴らしているうち、同じ音量を得るボリューム位置が徐々に下がってきたではないか。
どうやら、当初はしばらく使用されていなかったことによる鈍りがあり、それが次第に解消したためのようで、今般もまた、音響機器のリハビリテーション効能を実感することとなったわけだ。
そして現在、本機から流れ出る音はというと、基本的に当初感じた溌溂さに変わりはないが、聴き込んで感じるのは、それが徒な躍動感ではなく、音楽に具わった情感まで、忠実に再現してくれる点である。
周波数特性を見ても、高音再生能力はまず問題なかろう、と踏んでいたのだけれど、実際、当方の主に聴くジャズにおけるそのレンジの代表であるシンバルも、スピーカーによってはまるで箔を叩いているようなシャラシャラした薄っぺらな音になってしまうのに対し、本機はしっかりと厚みをもった響きを再生してくれる。
一方、低音に関しては、ユニットおよび筐体のサイズ、周波数特性の数値双方からさほど期待はしていなかったのだが、これは良い意味で予想を大きく裏切られた。
必要にして十分な量と、無理に出そうとして変に膨らんだものではない、しっかりとした質を具えた低音がこの小さなスピーカーから迸り出る様は、何とも不思議というほかない。
また、この小ささ故に、あたかも単一ユニットのフルレンジ・スピーカーのような鮮明な音像が目の前に現われる一方、それと反相関を持ちやすい音場の方は、サイズからは考えられないほどのスケールで展開されるのも、本機の大きな魅力だ。
――と、まるでいいこと尽くめのような物言いとなってしまったが、これらは決して嘘偽りではなく、個人的ながら私の正直な印象である。
敢えて粗を探すとすれば、ベースの響きなどにもう少し深い余韻が欲しい点と、このシステムで聴いたのは小編成のジャズのみで、それに基づく評価のため、たとえばクラシックにおけるヴァイオリンやオーボエなどの繊細な音色、さらにはオーケストラの響きに対し、どれだけの再現力をもっているかについては、現状何も言えないことくらいだろう。
もう一つ、ネット上にはこのスピーカー(および姉妹機)に対する否定的レビューも散見されるが、それらは概ね「非力なアンプ」に接続した場合のもので、このことから、本機の実力の発揮具合は、アンプのグレードに大きく影響される可能性の高いことも挙げておく。
この点、当方のパワーアンプ「RAMSA WP-1100A」はそれなりのパワーを有するので、「Entry S」の実力をかなりの程度まで引き出してくれているに違いなく、組み合わせの面でも正解を得たわけで、気分上々である。
それはさておき、以上、さまざまな面から見て、ALR Jordan「Entry S」を、大型機の特性を(超)小型ボディに凝縮したスピーカー――と呼ぶのは、決して的外れではないと思う。