文学者としてのヴァレリーの名は承知していた一方、クローデルと聞いて頭に浮かんだのはカミーユ・クローデルのみで、しかしこちらは、確か女流彫刻家でロダンの弟子かつ愛人だったはず……
と、こう言えば私の知識の程度が知れてしまうが、そもそも両者ともその文筆の大きな部分が韻文にあることからすれば、その領域への興味・関心、いやもっと率直に感性の乏しい当方にとって、二つの芳名に馴染みの薄いのは致し方ないところである。
実際、ヴァレリーにしても、その作品を読んだ記憶はなく、改めて書棚を眺めても見当たらなかったので、単に文学史的知識として頭に入っていたに過ぎないわけだ。
クローデルに至っては文業・経歴いずれについても知見がなかったので、今般それらについて参照したところ、上に挙げたカミーユの実弟で、文学の領域だけではなく外交官としても顕著な活躍があり、数年に亘り駐日大使も務めたことを知った。
「筑摩世界文学大系51」にこの二人の作品が併収されたのは、時代的に重なるほか、両者ともに19世紀フランス象徴派の代表的詩人であるステファヌ・マラルメに繋がる要素を具えているためだろう。
と、もっともらしく言うが、後者は本巻に付された月報を読んでの認識である。
さて、いざ本巻を繙いて読み始めたものの、正直、一筋縄ではそれらの良さの把握、理解、さらには玩味など、到底できそうもないと思い知ることとなった。
上に白状した通り、元々この領域には不案内な上、難解で知られる作品群なのだから当然と言えば当然だが、やはり忸怩たる思いは禁じ得ない。
しかしすぐに閉じてしまうのは如何にも口惜しく、そこで本巻全体の通読は今般一先ず措き、戯曲・詩そして散文それぞれの作品から、いくつかずつピックアップして読むことにした。
このような読み方も決して悪くはあるまいし、またこれを自由に実行できるところも本の大きな美点と言えよう。
本巻に収録された作品は以下の通りである。
[クローデル]
真昼に分かつ
マリヤへのお告げ
クリストファ・コロンブスの書物
詩法
東方所観
[クローデル]
旧詩帖
若きパルク
魅惑
拾遺詩篇
未成詩
海
素材詩
当世風俗
ABC
水浴
ロール
譬喩
水を讃う
ナルシス交声曲
楽劇アンフィオン
楽劇セミラミス
魂と舞踊
一人対話
テスト氏
詩と抽象的思考
クローデルと無限(モーリス・ブランショ)
ヴァレリーの肖像(H・モンドール)