蓼科高原日記

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新訂中国古典選11 史記(2) 楚漢篇

改めて言うまでもなく、司馬遷の著した「史記」は、中国の歴史書の正統とされる二十四史においても筆頭に位置付けられるものである。

 

最も古い時代を扱って最初に置かれると同時に、内容の豊かさと記述の妙、すなわち質・量ともに他に抜きん出ていることをご存じの通りだ。

 

しかしながら、全130巻(篇)という膨大な分量から、これを網羅的に収録した我が国の書籍としては、日本三大文学全集の一つとして名高い「新釈漢文大系(明治書院)」しかないように思う。

 


私の場合、史記を読みたいという気持ちは前々から持ち合わせていたのだが、上記全集でも14巻を占める、その全てを手元に置いて繙くだけの金力も気力もなかったため、他に何か良い本はないだろうか――と物色。

 

そして見出したのが、「新訂中国古典選(朝日新聞社)」中の3巻だった。

 

これもまた言わずもがなだろうけれど、史記の中でもっとも我々を惹きつけるのは、中国全土を支配した帝王の事績を記した「本紀(12篇)」、諸侯およびその一族の記録である「世家(30篇)」、そして、名臣を初め広くさまざまな分野における顕著な人物の活躍を写した「列伝(70篇)」であろう。

 

上に書いたように、新訂中国古典選の史記は3巻なので、当然抄録である。

 

例えば「新訂中国古典選11 史記(2) 楚漢篇」には次のものが収められている。

 

項羽本紀
高祖本紀
蕭相国世家
留侯世家
黥布列伝
淮陰侯列伝
項羽と劉邦(解説)

 

そして、これらの各篇は、いずれも史記に忠実に、省略なく全文を含んでいるのだ。

 

20210708-新訂中国古典選11

 

第10巻の「春秋戦国篇」、第12巻の「漢武篇」についても同様で、これから分かる通り、「新訂中国古典選」では、史記の全体から広く浅く文章を拾うのではなく、敢えていくつかの篇だけを採り、代わりにそれらに関しては司馬遷の描写を遺憾なく味わえるようになっている。

 

これは正しく個人的に望んでいたものだった。

 

私が興味を覚える本の例に漏れず、「新訂中国古典選」も1960年代後半に出された古いもので、既に絶版となっていたため、古書として入手する他なかったのだが、別段稀覯本でもないので手頃な価格で入手することができた。

 


構成について言えば、白文(原文)に返り点のみを付したものが適当な段落(?)に分けられ、そのそれぞれに読み下し文、そして注釈を含んだ訳文が続いている。

 

当初、史記本来の部分を理解したいとの気持ちがあったことから、訳文は原文に即している方が望ましく思ったが、ディレッタントとしてまず一読するのであれば、本書の形も決して悪くはない。

 


実のところ、この「新訂中国古典選」を購入するに際し、一つの気掛かりがあった。

 

それは他でもない、出版元が、捏造記事や偏向報道で著名な新聞社という点である。

 

もしかしたら、訳文や解説などに変な味が付けられているのではなかろうか――との危惧を抱いていたのだけれど、幸いそれは杞憂だった。