アメリカのSF作家、オースン・スコット・カード(Orson Scott Card)の作品を初めて読んだ。
カードといえば、映画化もされた「エンダーのゲーム」が有名なようだが、実は、個人的にはこちらも未読かつ未観だった。
今般私が読んだのは1987年に発表された「第七の封印」、原題「Wyrms」である。
見慣れない単語なので調べてみると、何のことはない、"worms(ワーム)"、すなわち芋虫の類の異綴同音同義語(?)で、作品中に登場するモチーフに依拠しているのだと納得した。
一方、「第七の封印」という邦題は、無論ワームとは何ら関係はなく、こちらは直接的には、ヒロインのペイシェンスが、惑星イマキュラータの七国王の正当な王の後継者として、かつ世界の救済者を産む「第七かける七かける七代目の娘」として生を受けたことに因んでいる。
我々日本人にはなかなか理解し難いことだが、キリスト教を奉ずる人々は"7"という数に強い宗教的意味合いを感じるらしく、これを鑑みるに、カードが本作に籠めた、物語を貫いて流れる宗教的色彩を暗示するタイトルとしては好個なものと言えるだろう。
さて、本作のストーリーは、父親を亡くしたことでそれまで使えていた王から命を狙われることとなったペイシェンスが、その刺客から逃れ、自らの心へ強烈に呼びかけてくる「アンワーム」の元へと、様々な知識・技術(そこには暗殺・殺傷能力も含まれる)の長年に亘る教育係たるエンジェルをはじめ、途中で出会う女丈夫、さらには惑星イマキュラータに居住する種族の何人かと共に向かう形で展開する。
そのアンワームは、この惑星の固有生物ワームの突然変異種ともいえるもので、他の生物の記憶・知識を我が物とし、それを自分の子に伝えてこの惑星の人類を含む他の種を殲滅せんと、7000年に亘り配偶者がこの世に現れるのを待っていたのだが、その配偶者こそ、「第七かける七かける七代目の娘」ペイシェンスなのである。
従って、先に書いた「世界の救済者を産む」における「世界」に二義性が現われ、彼女の戦いは単純な征討や復讐とは異なる性格を具えることとなり、ここに上に述べたカードの人生観・世界観、そして宗教観が色濃く出てくるのである。
実は、個人的なことを言えば、正直その宗教色が少なからず鼻についた感を否めず、カードはモルモン教を深く信奉しているというから、恐らく他の作品も、その底流にこれが流れているように想像される。
しかしこの点さえ気にしなければ、多くの読者に大きな愉しみを与えてくれる作家であることは間違いないだろう。
なお、蛇足となるが、スウェーデンのイングマール・ベルイマン監督が撮った1957年の映画作品に同じタイトルのものがあるが、カードの小説はこれと何ら関係のないことを念のため記しておく。