宿をチェックアウトする前に、今一度早朝の倉敷美観地区を歩いた。
倉敷川から逸れた界隈へ少し入ると阿智神社の急な石段が現れたので、そこを上って参拝。
少々苦労して高さを稼いだお陰で、倉敷の町の俯瞰も得ることができた。
学生時代に倉敷へ来たときは、滞在時間の多くを大原美術館で過ごしたが、今回は本当に町歩きだけに留まってしまったのが些か残念ではある。
しかしここへはまた必ず来るだろうし、その際はゆっくり滞在したいと思う。
そんな土地と、さらにその中で立ち寄りたい場所を見出せたことに満足して「ホステル クオーレ倉敷」をチェックアウトした。
この宿の建物は、併設のカフェ&バー「バル・クオーレ」をちょうどパティオとする形にぐるりと取り囲んでおり、そこに配された部屋はそれぞれ独自のテイスト・フレーバーを具えているようだ。
私の泊ったのは、南欧風ともアジア風ともアンティーク風とも言える部屋、しかし一見ミスマッチとも思える倉敷の「和」と不思議に調和していた。
旅の七日目、最終日の主眼は勿論自宅へ無事に戻ることである。
はじめは倉敷から真っ直ぐ、どこへも寄らずに帰路を辿るつもりだったが、姫路駅での乗り継ぎにおいて少し時間が空き、それなら名城として名高い白鷺城すなわち姫路城を見ない手はなかろうと思い直した。
そうなるともう少し時間が欲しくなり、これを捻出すべく当初考えていた赤穂線の乗車を諦め、往路を踏襲して帰ることにした。
倉敷駅7:47発相生行山陽本線の列車に乗り、終点で姫路行に乗り換えて姫路駅に着いたのは9:46。
白鷺城を訪れるのに許された時間は一時間半弱である。
駅から城までは約1.4km、アクセス手段としてはバスもあるが、北口を出て正面遠くにその優美な姿を見たら、少しずつ自分の足で近づいて行きたいという気持ちが胸に湧いて自然と歩き出していた。
二十分ほどで濠の前に到着。
ここで一息つき、桜門橋を渡って大手門を潜り、広々とした三の丸広場を縦断して目の前に聳える城を仰ぐこと暫し、その見事さに感心を一層深くした。
時間的に入城は無理だったので、外貌だけは多角的に目に焼き付けておこうと、無料観覧エリア内を行き来しながら三十分ほど色々な角度から眺めた後、名残を惜しみつつ城を後にした。
あとはひたすら列車で帰路を辿るだけだ。
何ら新奇さはないが、当日の経路は次の通りである。
姫路―(神戸線新快速)→米原―(東海道本線)→大垣―(東海道本線新快速)→名古屋―(中央本線区間快速)→中津川―(中央本線)→塩尻―(中央本線)→茅野
接続が良いのはありがたいが、昼食を摂る時間のないことがわかっていたので、姫路駅構内のコンビニでサンドウィッチだけは買い、車内で適当な時に口に入れたものの、些か物足りなかった。
唯一、中津川駅での乗り継ぎ時間が二十分あり、ネットで調べると「根の上そば 梅信亭」という名店が構内にあるということを知り、列車が同駅に着くと急いでそこへ。
が、店はすぐわかったのだけれど、暖簾を潜ると誰もいないない。
一声二声かけても応答はなく、しばらくぼんやり待ったが現れなかった。
あまり急いて食べるのも気が進まなかったので、残念ながら諦めて再び列車の乗客となった。
塩尻へ向かう列車に若干の遅れが生じたが、茅野駅には定刻の夜七時半過ぎに到着。
山の上の我が家へ向けて車を走らせる途中で夕食を認め、九時前に恙なく帰宅することができた。
今回の出費は、青春18きっぷ七日分の料金を含め六万円と少し。
例によって安上がりな、しかし十分愉しい旅だった。