蓼科高原日記

音楽・本・映画・釣り竿・オーディオ/デジタル機器、そしてもちろん自然に囲まれた、ささやかな山暮らしの日常

瀬戸大橋を渡り初めて四国へ

早朝6時過ぎ、JR茅野駅から中央本線長野行列車に乗り込み、今般の鉄道旅行が始まった。

 

この初日は、四国は香川県高松まで約640km、所要11時間27分(乗車9時間30分)の長旅である。

 

しかしこの乗車は塩尻駅までの三十分弱で、気分的にはここで同じ中央本線の中津川行に乗り換えて旅のスタートを切った感じを覚えた。

 

もっとも、こちらも平日の朝、ロングシートの通勤通学仕様の列車だったので、気持ちの高揚は今一つだった。

 


奈良井までは眩しい青空が広がっていたが、その先のトンネル(だったと思う)を抜けると車窓は霧に包まれた風景に一変、たださらにいくつかトンネルを潜るうち、標高が下がったためだろう再び夏の強烈な日差しが降り注いできた。

 


上松駅を過ぎ、前月に車で訪れた寝覚の床を、今度は車窓からより近くに眺めようと目を凝らした。

 

その目的は確かに果たしたのだけれど、見えたのはほんの一瞬、わかっていたことではあるものの何ともあっけない。

 

この名所を観るには車で訪れる方に大きな分があると言うべきだろう。

 


中津川で快速列車に乗り継ぎ、名古屋へ。

 

次に乗るべき東海道本線のこちらも快速列車の発車までは30分弱あり、朝食が早く既に空腹感を来たしていたので、駅ホームのきしめん店へ入てきつね(きしめん?)を注文したのだが、それが出てくるのを待ちながら表に目を遣るともう結構長い列ができ始めている。

 

何かおかしいと思って確認したら、単純な時間の計算を誤っており、実際の余裕は17分に過ぎなかった。

 

これは困った、しかし急いで食べれば何とか間に合うだろうし、万一の時は勿体ないが残して乗り込めばよかろう――と焦る気持ちを抑えつつきしめんのできるのを待ち、それが出されると同時に急いで箸を動かした結果、幸い完食できた上、目当ての列車にも乗り遅れずに済んだ。

 


次いで大垣駅で同駅始発の琵琶湖線新快速列車に乗り継ぎ。

 

幹線の主要駅、しかもその列車は既に入線していたため座席に空きはほとんどなく、通路側に辛うじて一つ見つけられただけだったが、先の駅での乗降も活発だろうからその内好個な席が空くだろうと期待してそこに腰を落ち着けた。

 

この予想は当たり、ほどなくして窓際へ移ることができ、以後姫路までぼんやりと車窓を眺めながら鉄路を辿った。

 


姫路からは山陽本線播州赤穂行で相生まで進み、ここで備中高梁行へ乗り継ぎ岡山へ到着したのが16時半である。

 

名古屋からここまでは学生時代に一度辿ったはずだが、既にそれから三十年以上が経過しており、沿線風景も大きく変わっただろうし、そもそもその時の記憶をすっかり忘失していたことから、実質的には初めての車窓として愉しむことができた。

 

 

 

 


しかしやはり、岡山から先、瀬戸大橋線で四国へ向かう路線に対する期待の方が遥かに大きい。

 

岡山での乗り継ぎには10分ほどの時間があったものの、乗車する快速マリンライナーの発ホームへ行くとこれも既に入線済みで座席もほぼ埋っており、通路側の一つを辛うじて見つけられただけだった。

 

瀬戸大橋にかかるまでにどれくらいの時間を要するのか不分明だったので、折に触れて窓外に目を向けて確認しているうち、児島駅を過ぎて海が見えたことから、間もなく今回の旅での筆頭目当てに到達するはず――と身構えると、実際すぐに上りにかかり、次いで車窓には鉄の構造物の向こうに青い海が広がった。

 

車内を眺めると観光客は少ないのか、窓外に向いている目は少ない。

 

我が席の窓際に座を占めている人もその例に漏れず、そちらをじっと見つめているのも気が引けたので、座を立って乗降ドアの所へ行き、その窓から海の広がりが後方へ去り列車が四国へ入るまで眺め続けた。

 


夕方5時半過ぎ、列車は高松駅へ到着。

 

予ての計画通り栗林公園を訪れるべく、琴電高松築港駅へ急ぎ、発車間際の電車へ乗って3駅目の栗林公園駅で下車し、徒歩で同公園へ。

 

日の長い時季とはいえ既に夕暮れの気配が漂い、閉園時刻も迫っていたためだろう、園内に人影は疎らで、外国人観光客の姿がぽつりぽつりと見られるだけだった。

 

広大な公園ゆえ遍く周ることははじめから考えておらず、造園当時の姿を今に伝えると言われる南庭を一通り巡り、北庭は芙蓉沼の一望を胸に収めてそこを後にした。

 

大名庭園だけあってその見処の支柱は壮麗明媚にあるが、幽邃な趣を醸す景物も適所に配されており、庭園の風格を大きく高めている印象を受けた。

 

20240815-栗林公園

 


宿へ入る前に夕食を済ませてしまおう、折角讃岐うどんの本場へ来たのだからそれを――と左右を眺めながら歩を運んだが、事前にネットなどを眺めている時に感じた通り夕方以降に営業している店は少なくなかなか見つからない。

 

そろそろ嫌気が差してきた時、どこかで聞いたことのある「はなまるうどん」という名が目に入り、何も高松まで来て――との思いはあったものの、他に当てのあるわけでもないので入店し、牛肉温玉ぶっかけうどんを夕食とした。

 


この日の宿は「フラトンキャビン高松」というゲストハウスである。

 

大部屋にベッドの並ぶ海外のゲストハウスとは異なり、カプセルホテルタイプの寝床が上下二段に並んでいるスタイルで、割り当てられたのはその上段だった。

 

昇降が少々面倒な上、床に複数置かれた小型エアコンから出る冷気が下に溜まってしまい、中はかなり暑い。

 

さらに、はじめは気付かなかったのだが、いざ寝ようとするとその作動音が耳について離れない。

 

幸い、そんなこともあろうかと思って耳栓を持って行ったので、早速これを使って浅いながら何とか眠りに入ることができた。

 

この種の宿泊施設らしくかなり広い共用ルームが宿泊者の集いの場として提供されているけれど、Wifiを利用しようと1時間ほどいた間には誰も顔を覗かせなかった。

 

上の寝床の形式と併せ、我が国のゲストハウスらしいといえば言えるのかもしれない。

 

シャワールームやトイレなどの設備は清潔、宿泊費も格安なので、一人でゆったりしたいという望みの強くない向きには悪くない宿だと思う。