蓼科高原日記

音楽・本・映画・釣り竿・オーディオ/デジタル機器、そしてもちろん自然に囲まれた、ささやかな山暮らしの日常

予土線から四万十川、徳島線から吉野川

7:51発予讃線宇和島行列車に乗るべく、7時過ぎに宿を出、今日も暑くなりそうだと思いながら伊予大洲駅へと向かった。

 

もっとも、この三日目は伊予大洲から徳島を目指してひたすら鉄路を辿り、観光の予定はない。

 


駅構内のベンチに荷物を下ろし、駅舎の写真を撮影したりして時間を遣り過ごしてホームへ。

 

入構した列車にここで乗り込んだのはほとんどが高校生らしい制服姿で、車内を見渡しても同じ様子だった。

 

しかし車両は二人掛けシートが通路を挟んで左右に並ぶ古い急行を思わせるものだったため、ちょっと修学旅行の一団に紛れ込んだような気分になった。

 

特急ではなく急行と書いたのは、前後の座席間隔が狭い・前の座席下に足を伸ばせない・太い縦の窓枠があって車窓を眺めにくい席がある――といった点からの印象で、さらに普通列車として使用しているためだろうか、リクライニング機構が利かなくなっており座り心地は良くなかった。

 


9時過ぎに宇和島駅へ到着。

 

次の列車への乗り換えは一つ手前の北宇和島でいいのだけれど、その始発駅となる宇和島まで行った方が座席を確保しやすいだろうし、別段意図しているわけではないものの路線の乗りつぶしという点でも好都合、そして青春18きっぷを利用して料金に差異はないということで宇和島まで足を伸ばしたのである。

 

同駅始発予土線窪川行列車運転席のガラスには"SHIMAN TROCCO"の文字が見え、これから推すと昔は観光トロッコ車両を引いていたのかもしれないが、これもロングシートの通勤通学用単行列車として運行されていた。

 

20240825-(1)予土線

 


9:33に宇和島駅を出発し、終点窪川までは2時間半強、この路線はもちろん四万十川を眺められることが大きな売りで、この川に数多く架けられている、欄干を具えず増水時には水没することで流失を避ける沈下橋の四つ見られる区間に入る手前では、運転士によるその旨のアナウンスがあった。

 

20240825-(2)四万十川

 

ロングシートには所々空きがあったので、四万十川の見える側へ適宜移動してそれを眺め、また土佐昭和・土佐大正というちょっとおもしろい名の駅なども目に収めて無事窪川へ到着。

 

その直前にこれも運転士により、一つ手前の若井と窪川の間は土佐くろしお鉄道の路線で青春18きっぷなどは無効ゆえ、別途運賃の発生する旨アナウンスされた。

 

これについては見落としており、窪川駅で下車した際の窓口で210円を支払った。

 


次の土讃線土佐山田行列車の発車までは20分、昼食を摂るのは難しいし、そもそも昨夜一緒に注文して朝食にした中華料理がまだ腹に残っていたことから、一食抜くことにして同列車の乗客となり、午後2時半過ぎに高知へ着いてまた乗り換えのため下車した。

 

この頃になると、昼を抜いた腹にやや寂しさを感じ始めたが、食事を摂るには中途半端な時間帯にかかっており、わざわざ店へ入ってしっかりしたものを口にするほどでもない。

 

そこで列車の中で手軽に食えるものをどこかで調達できないか、と思いながら駅を出て少し歩くと、エースワンというスーパーマーケットが目にとまり、コンビニよりは地方色もあるだろうと入店したものの、買ったのは結局、値引きシールの貼られたエビカレーと小さなうなぎのひつまぶし弁当だった……

 

我ながらもう少し食に対する興味や拘りがあってもいいように思う。

 

 

 

 


駅に戻ってもまだ時間はある。

 

これから乗る列車が万一ものを食べにくい状況だったら――との懸念がふと心に浮かんだこともあって、ホームに設けられた待合スペースで先のエビカレーを胃の腑に収めた。

 

これですっかり腹は膨れ、その列車、高知駅15:27始発土讃線阿波池田行も到着したので、ひつまぶしの方は夕食に取っておくことにして乗車。

 

発車時にはそれなりの乗車率となり、座を占めた4人掛けボックスシートの斜向かいも埋まったので、時間はずれの食事、しかも少々においのきついカレーを食うにはやはり躊躇される状況といえ、先の判断は正解だったようだ。

 


列車が動き出してどれくらい経った頃だろうか、灰色の雲に太陽が隠され、山間に入ったこともあって車窓はやや陰鬱さを感じさせる風景へと変じた。

 

そんな中で到達した、スイッチバックが行われることとともに秘境駅の一つとしても知られる新改は、正にその面目を躍如とさせる趣を漂わせていた。

 

さらに山の中を進むこと一時間ほどで大歩危小歩危という名勝に至り、絶景の片鱗は窺うことができたものの、個人的にはもっとじっくり味わいたいとの想いが強かった。

 

一瞬の妙が分からないわけではないのだが、やはり対象は限定され、その範囲は人により大きく異なるように思う。

 

木曽路はすべて山の中――という島崎藤村の言葉通り、中央本線は深い樹々の間を行くが、気候、延いては樹種の関係もあるのか、四国の路線、特にこの土讃線は木々の枝が一層列車に近く覆い被さっているため、幽暗の度合いは上のような気がする。

 


夕刻6時過ぎに阿波池田駅に到着。

 

yahoo乗換案内ではこの日最後に乗車する徳島線徳島行として一時間近く後の列車が表示され、これに乗車するつもりでいたのだが、いざ着いてみると同じホームの反対側に同等列車が出発を待っていたため、多くの人に続いてそれに乗り込んだ。

 

当然ながら座席は既にほぼ埋まっており、吉野川を見るに好適な席――などという贅沢は叶わなかったものの、案の定次第に空席ができ始め、その望みは叶えられた。

 

ほんのわずか眺められただけだが、宵闇にうっすらと浮かぶ吉野川の姿もなかなか良かった。

 


徳島に20:16に到着し、真っすぐ宿へ向かう途中、新町川の川辺の公園では、阿波踊りの練習だろうか、鳴り物を伴い一団が活動していた。

 

この日の宿は「リラクゼーション&スパ ホテル ネクセル」。

 

ほとんど寝るだけの一泊なのでドミトリーで十分かとも思ったが、シングルルームでもさほど値段が変わらなかったのでこちらを選択した。

 

ただ、その部屋はかなり狭い上、窓がなく、照明を常夜灯にすることもできなかった。

 

火災等の非常時を考えると、慣れない部屋で真っ暗にして寝るのはさすがに躊躇われたので、照明は点けたまま、掛布団を顔まで引き上げて目を瞑った。

 

建物や設備は新しく綺麗だった。