本
1905年10月、当時まだ地理的に空白だった、ヒマラヤ山脈の北、チベット高原中央部から南部にかけての地帯を踏破して禁断の聖都ラサへ足を踏み入れるという壮大な意図を胸に、ヘディンは第三回中央アジア探検へと向かった。その出発点となるインドまでは、普…
近未来、核兵器と生物兵器の使用された世界大戦により、アメリカ合衆国という統一国家は瓦解し、人々は各地に孤立的なコミュニティを形成してサバイバリストという無法者の集団に対峙していた。そんな荒廃した世界に生き、旅をしながら折に触れてそれらコミ…
アンブローズ・ビアスという名に接して、「悪魔の辞典」「アウル・クリーク橋の一事件」といったタイトルを直ちに想起する人士は少なくないだろう。かく言う私自身、いずれも岩波文庫版の「悪魔の辞典」および、「アウル・クリーク…」を含む「ビアス短編集」…
「黒死荘殺人事件(黒死荘の殺人)」は、アメリカの推理小説作家ジョン・ディクスン・カーの手になる作品で、現在我が国ではこれが著者名として冠されることが通例だが、本来はカーター・ディクスン名義で発表された第二作である。そして、このペンネームは…
世界ノンフィクション全集第13巻は、同前12巻に続いて人間社会における歴史的大変革を主題とした次の三つの文章を収録している(()内は著者)。フランス革命(ルイ・マドラン) ペトログラード1917年(N.N.スハノフ) 中国の赤い星(エドガー・スノウ) しかし、前巻…
未来社が企画編集し、ほるぷ出版から発売された「日本の民話」は、昭和32(1957)年の第一巻「信濃の民話」にその源を求めることができるようだ。そしてこの流れから、いくつもの民話がとり上げられ、かつて「まんが日本昔ばなし」としてテレビ放送されたそう…
東京創元社の「年刊SF傑作選」は、アメリカで生まれ、後にカナダへ移住してそこで生涯を閉じたジュディス・メリルの編んだアンソロジーで、日本語版は第7巻まで出されている―ということは知識として頭にあったのだが、今般その第1巻の本文を読み終え、解説に…
筑摩世界文学大系の第64巻は、古代文学集である。時代は古代として、地域はどこに焦点が当てられているかというと、ギリシア・ローマだ。もっとも、こう言ってまず想起されるであろうホメロスは第1巻に収録されており、続く第2巻はギリシア・ローマ古典劇集…
19世紀中葉から本格的に開始された西域―すなわち、古代の中国人にとっての自国西方タリム盆地の国々、現代においては中央アジアとその周辺を含むさらに広い地域―の探検に関する、さまざまな探検家=著者の紀行を集めた「西域探検紀行全集(白水社)」の第6巻に…
改めてご紹介するまでもないかもしれないが、アメリカのミステリー作家エラリー・クイーンは、実際はフレデリック・ダネイとマンフレッド・ベニントン・リーという従兄弟同士の二人が、自分たちの共作による推理小説用に採用したペンネームで、同時に作品中…
小松左京と言えば、改めて説明することもなく、星新一、筒井康隆とともに日本SF界の御三家と称される巨星である。同時にまた、「霧が晴れた時」という自選恐怖小説集のあることなどからも窺われる通り、単にSFに限らず広い範囲に亙る文筆作品、さらにはラジ…
『「雨の木」を聴く女たち』(大江健三郎、著)は、1980(昭和55)年から1982(昭和57)年にかけて、文學界および新潮に発表された次の五作からなる連作短編集である。・頭のいい「雨の木」・「雨の木」を聴く女たち・「雨の木」の首吊り男・さかさまに立つ「雨の…
全13巻からなる、朋文堂「世界山岳全集」の第6巻には、成功裡に終わった登山の記録が二編収録されている。そして、両編とも、それぞれの登山隊を率いた隊長によって書かれたという点でも共通している。一つはサー・ジョン・ハントの「エベレスト登頂」、もう…
当方の書棚に鎮座しているクリフォード・D・シマックの作品は、代表作にして傑作の誉れ高い「都市」をはじめ、「大宇宙の守護者」「マストドニア」「法王計画」「超越の儀式」の五冊である。この内、処女長編「大宇宙の守護者」は既に読み、今般、さて次はど…
「スタンフォード物理学再入門 量子力学」は、スタンフォード大学教授レオナルド・サスキンドが同大学で行った社会人向け講座(The Theoretical Minimum)から誕生した一冊にして、先に記事にした「スタンフォード物理学再入門 力学」の姉妹編(続編)である。そ…
フランツ・カフカについては、改めてご紹介する必要はないだろう。およそ世界文学全集と名の付く叢書において、この作家の作品を収録していないものはまず見られないことからも、現在カフカがどれほど重視されているかを窺うことができる。筑摩書房の世界文…
「中国の詩人―その詩と生涯」(集英社)の第三巻は、東晋から南朝の宋にかけて生きた謝霊運(しゃ・れいうん)を取り上げている。二十歳ほど先輩に陶淵明がおり、生きた時代は大きく重なっている。個人的なことを言えば、この詩人の名は、南朝梁の昭明太子によっ…
二見書房刊「釣魚名著シリーズ」の一冊に、衆議院議員を14期務めるとともに文部大臣、法務大臣などをを歴任した稲葉修の「鮎釣り海釣り」がある。この著者の政治家としての名前は、ちょうど個人的に世の中の事に目を向け始めた頃、政治の中枢におられたこと…
「僧正殺人事件」は、アメリカの推理小説作家S.S.ヴァン・ダイン(本名ウィラード・ハンティントン・ライト)が1929年に発表した、ファイロ・ヴァンス・シリーズの第四作である。原題は「The Bishop Murder Case」で、前三作同様、[6文字]の殺人事件となってい…
岩波講座の世界歴史を二巻読んで、現在の私の頭にある歴史知識は、遺憾ながらこの大部な叢書に取り組むには質・量とも全くもって不足であることを痛感し、些かでもそのギャップを補うべく、この「西洋史通論」を書棚から引っ張り出して読んだ。奥付によると…
五年ほど前、久しぶりに力学を少し見直してみよう、しかしガチガチに基礎からやり直すのはちょっと…と、例によって手前勝手な欲求を覚え、Amazonをつらつら眺めている際に見つけて、これはまさにぴったりではないか、と購入したのが、この「スタンフォード物…
ほぼ文学史の年代を追うような形で作家を取り上げ、その作品を収録する巻を連ねているので当然と言えば当然なのだが、筑摩現代文学大系の第11巻は、一つ前の田山花袋集に続いて自然主義文学の大家、德田秋聲(秋声)の集に当てられている。これまでにも何度か…
キース・ローマーの作品を読んだのは、この「多元宇宙SOS」が初めてである。タイトルから予想したのは、「多元宇宙論(マルチバース=multiverse)にテーマもしくはモチーフを求めた物語だろう、」ということだったが、それにしてはゴリラとオランウータンを思…
「Foundations of Modern Analysis」は、フランス数学界の碩学、ジャン・デュドネ(Jean Dieudonne)が1960年代初めに著した一冊にして、そのタイトルが明に示す通り、また序文にも記されているように、現代解析学の基礎・基盤を読者に提示するものである。タ…
文学者としてのヴァレリーの名は承知していた一方、クローデルと聞いて頭に浮かんだのはカミーユ・クローデルのみで、しかしこちらは、確か女流彫刻家でロダンの弟子かつ愛人だったはず…と、こう言えば私の知識の程度が知れてしまうが、そもそも両者ともその…
名立たる先生方による、伝統のヨイショ芸を堪能できるお座敷―と称される(個人的にはそう認識している、笑)某雑誌の、創刊30周年を記念して発行された一冊である。内容に関してはそのタイトルが示している通りなので措くとして、構成について一言すれば、国内…
「世界ノンフィクション全集10」で述べたように、筑摩書房のこの叢書は何度か改版されており、各版の間には総巻数や収録作品に異同がある。これも上の記事でご紹介したことだが、私の保有するのは1968(昭和43)年に世に出た全30巻のもので、その第12巻には次…
1923年に出版された「ゴルフ場殺人事件(Murder on the Links)」は、「スタイルズ荘の怪事件」「秘密機関」に続く、"ミステリーの女王"アガサ・クリスティの三作目の推理小説である。しかし、ここ日本ではそれほど知られていないように思う。邦題は原題の意味…
「箱男」は、1973年に新潮社より上梓された安部公房の作品で、今般私は、後に文庫化された版で読んだ。その前著、「夢の逃亡(1968年)」まではコンスタントに作品を発表してきた安部公房だが、上の刊行年と比較すれば分かる通り、両者の間には実に5年の間隙が…
「タイタンの妖女」は、「猫のゆりかご」「スローターハウス5」などの作品で知られるアメリカの小説家カート・ヴォネガット・ジュニアが1959年に発表した、二作目の長編小説である。なお、1976年の「スラップスティック」以降の作品では、"Jr."をとったカー…