本
ほぼ文学史の年代を追うような形で作家を取り上げ、その作品を収録する巻を連ねているので当然と言えば当然なのだが、筑摩現代文学大系の第11巻は、一つ前の田山花袋集に続いて自然主義文学の大家、德田秋聲(秋声)の集に当てられている。これまでにも何度か…
キース・ローマーの作品を読んだのは、この「多元宇宙SOS」が初めてである。タイトルから予想したのは、「多元宇宙論(マルチバース=multiverse)にテーマもしくはモチーフを求めた物語だろう、」ということだったが、それにしてはゴリラとオランウータンを思…
「Foundations of Modern Analysis」は、フランス数学界の碩学、ジャン・デュドネ(Jean Dieudonne)が1960年代初めに著した一冊にして、そのタイトルが明に示す通り、また序文にも記されているように、現代解析学の基礎・基盤を読者に提示するものである。タ…
文学者としてのヴァレリーの名は承知していた一方、クローデルと聞いて頭に浮かんだのはカミーユ・クローデルのみで、しかしこちらは、確か女流彫刻家でロダンの弟子かつ愛人だったはず…と、こう言えば私の知識の程度が知れてしまうが、そもそも両者ともその…
名立たる先生方による、伝統のヨイショ芸を堪能できるお座敷―と称される(個人的にはそう認識している、笑)某雑誌の、創刊30周年を記念して発行された一冊である。内容に関してはそのタイトルが示している通りなので措くとして、構成について一言すれば、国内…
「世界ノンフィクション全集10」で述べたように、筑摩書房のこの叢書は何度か改版されており、各版の間には総巻数や収録作品に異同がある。これも上の記事でご紹介したことだが、私の保有するのは1968(昭和43)年に世に出た全30巻のもので、その第12巻には次…
1923年に出版された「ゴルフ場殺人事件(Murder on the Links)」は、「スタイルズ荘の怪事件」「秘密機関」に続く、"ミステリーの女王"アガサ・クリスティの三作目の推理小説である。しかし、ここ日本ではそれほど知られていないように思う。邦題は原題の意味…
「箱男」は、1973年に新潮社より上梓された安部公房の作品で、今般私は、後に文庫化された版で読んだ。その前著、「夢の逃亡(1968年)」まではコンスタントに作品を発表してきた安部公房だが、上の刊行年と比較すれば分かる通り、両者の間には実に5年の間隙が…
「タイタンの妖女」は、「猫のゆりかご」「スローターハウス5」などの作品で知られるアメリカの小説家カート・ヴォネガット・ジュニアが1959年に発表した、二作目の長編小説である。なお、1976年の「スラップスティック」以降の作品では、"Jr."をとったカー…
マクシム・ゴーリキーという名が高らかに語られなくなって久しい。1892年、「カフカス」紙に処女作「マカール・チュードラ」が掲載されたのを皮切りに、1898年にはサンクトペテルブルクで短編集「記録と物語」が刊行され、時代の寵児としてアントン・チェー…
今般私の読んだ「山さまざま」は、「山の文庫」の一冊として1982(昭和57)年に朝日新聞社より刊行されたものだが、あとがきによると、この本には五月書房刊「山さまざま」(昭和34年)から12編、文芸春秋新社刊「山があるから」(昭和38年)から15編が収められて…
特に強く意図したわけではないものの、この全集は第1巻から順に、ほぼ日本近代文学史を辿る形でこれまで読み進めてきた。その第8および9巻は島崎藤村集、これらも書棚に並んではいるのだけれど、収録作品がいずれもかなりの長編で、オーディオに現を抜かしが…
アメリカのSF作家、オースン・スコット・カード(Orson Scott Card)の作品を初めて読んだ。カードといえば、映画化もされた「エンダーのゲーム」が有名なようだが、実は、個人的にはこちらも未読かつ未観だった。今般私が読んだのは1987年に発表された「第七…
西域―すなわち、古代の中国人にとっての自国西方にあるタリム盆地以西の国々、現代においては中央アジアとその周辺を含むさらに広い地域―は、古くから綿々と繰り広げられてきたドラマティックな歴史絵巻に加え、その中央を横断して通ずるシルクロードが人の…
1777年に生まれ、1811年に自ら拳銃で命を絶ったハインリヒ・フォン・クライストの生涯は、かのゲーテ(1749-1832年)のそれにすっぽりと包まれている。そして、そのゲーテらによって展開された疾風怒濤が落ち着きを見せ、変わってロマン主義の燦然たる曙光がさ…
1939年に発表された「そして誰もいなくなった」は、アガサ・クリスティの数ある推理小説の中でも最も有名な作品の一つに違いない。その一方、我が国で編まれたこのジャンルの代表的選集ともいえる、「世界推理小説大系」「世界名作推理小説大系」「世界推理…
集英社が1982年から翌年にかけて出版した「中国の詩人――その詩と生涯」は、副題が示す通り、詩そのものに焦点を当てるより、詩文を大きな拠り所としてその作者の生涯・人物像を明らかにすることに主眼を置いた選集と言えよう。全12巻には、李白・杜甫をはじ…
エリック・フランク・ラッセル(Eric Frank Russell)という名を聞いて、すぐにその作品が頭に浮かぶ人は、我が国においては決して多くないだろう。実は私も、今般、1964年に早川書房から発行された新書版二段組の本で、「超生命ヴァイトン(Sinister Barrier)…
「釣魚名著シリーズ」は、1970年代の半ばから80年代にかけて二見書房が刊行した、釣りにまつわる文章をあつめた叢書である。同出版社には、他に「山岳名著シリーズ」「海外山岳名著シリーズ」などもあるが、この内の前者がどうやら嚆矢らしい。漁師以外のプ…
原島鮮(著)「初等量子力学 」については、量子力学の入門書として名著の誉れ高い一冊であることは前々から承知していた。しかし、既に書棚に並んではいるものの熟読には至っていない同分野に関する書籍も何冊かあるため、これまで手にすることはなかったのだ…
「やし酒飲み」は、ナイジェリアの作家エイモス・チュツオーラの処女作にて、「アフリカの神話や民話が持つ奔放なイメージと生命力を見事に開花させた本書が発表されるや、ヨーロッパ文学界で絶賛を浴びた」というキャッチコピーに惹かれ、晶文社版を古書と…
同全集の前第10巻に続き、海と山での遭難記が収録されている。それらのタイトルおよび著者は次の通り。・タイタニック号の最期 ウォルター・ロード ・アルプスの悲劇 シャルル・ゴス ・剣沢に逝ける人々 東大山の会 ・松尾峠の思い出 槇有恒 ・太平洋漂流四…
学術全般に亘り、広く専門的内容を包含する巨大な叢書体系「岩波講座」において、先にご紹介した「世界歴史」と対をなして歴史学を取り扱ったものが、「岩波講座日本歴史」である。「世界歴史」同様、この「日本歴史」も、次に示すように戦前より改版を重ね…
アメリカの大衆小説家、エドガー・ライス・バローズの処女作である。単行本として出版されたのは1917年ながら、初出は1912年、雑誌「オール・ストーリー」に「火星の月の下で」というタイトルで掲載されたらしい。この「火星のプリンセス」を読んで、初めて…
「トレント最後の事件」については、そのタイトルから、名探偵トレントの活躍するシリーズが前にあるものとばかり長らく思っていたのだが、この考えは誤りであることがわかった。そもそもE.C.ベントリーが1913年にこの作品を書いた動機というのが、当時爆発…
正岡子規、およびこの文学的巨人に繋がる二人の作品を収録した巻である。[正岡子規]仰臥漫録 竹の里歌 [高浜虚子]柿二つ 五百句 [長塚節集]土 病中雑詠 子規については、ここに収められた「仰臥漫録」をはじめ、これとともに所謂「四大随筆」を呼ばれる「松…
アントン・チェーホフと聞けば、「犬を連れた奥さん」「桜の園」「三人姉妹」といったタイトルがすぐ念頭に浮かび、これらを含めてある程度の数の作品を読んだつもりでいたのだが、登場人物は?ストーリーは?となると、遺憾ながらほとんど記憶から呼び出す…
この全集の第5巻「陸路インドヘ(上)」には、1905年10月から翌年2月にかけてヘディンの通過した次の土地の紀行が収められていた。トルコ、アルメニア、イラン(テヘランまで)、カビール砂漠の辺縁および横断路 そしてこの第6巻「陸路インドヘ(下)」では、1906…
H.M.Edwards著「Riemann's Zeta Function」は、元々Academic Pressの数学叢書「Pure and Applied Mathematics」の一冊として1974年に刊行され、それから約30年を経た2001年、Doverから廉価版ペーパーバックの形で復刊された…
改めて言うまでもなく、司馬遷の著した「史記」は、中国の歴史書の正統とされる二十四史においても筆頭に位置付けられるものである。最も古い時代を扱って最初に置かれると同時に、内容の豊かさと記述の妙、すなわち質・量ともに他に抜きん出ていることをご…