蓼科高原日記

音楽・本・映画・釣り竿・オーディオ/デジタル機器、そしてもちろん自然に囲まれた、ささやかな山暮らしの日常

令和6(2024)年・春[0]―北海道&東日本パスで東北周遊

去年の一月、ちょっとした用事ができてそれを果たすために列車で長岡へ行った。当地蓼科へ移り住んでから初めての遠出、本当に久しぶりのことだった。

 

これにより胸の奥に潜んでいた旅心が刺激されて疼き出し、元々読むのが好きで既に書棚にあった紀行全集に加え、より軽い紀行本や地球の歩き方などのガイドブックを渉猟したことは以前書いた。しばらくはそれらを読み眺めるだけでそれなりに愉しく満足していたのだけれど、今年に入り、やはり実際にどこかへ行ってみたいという気持ちが急速に高まってきた。ちょうど、手持ちの家財の一部を売却して経済的な余裕も少し生じたことから、さらに久しくご無沙汰であった、用事抜き、それ自体が目的の旅行をすることにした。

 

先ず決めるべきことは、どこへ、どのように行くか――である。これらは、観たいものや体験したいことが明確ならば自ずと定まるのであろうが、正直なところ、今般はその類のはっきりした希望があるわけではなく、ただ我が身に旅路を辿らせたいだけなのである。

 

 

 

 

この欲求を満たしてくれるのは周遊の旅、交通手段は車か鉄道だろう。しかし長らく山の上に籠るように冬を過ごしてきた身には、車での長時間の移動は些か閉塞感を覚えそうな気がしたことから、鉄道を利用することにして手持ちの時刻表やネットなどを参照してみたのだけれど、昔はたくさんあった(と記憶している)本格的な(?)周遊券はほとんど見当たらず、さほど広くない範囲内で乗り降りできる限定的なものがちらほらとあるのみ。となると頼みの綱は、今も現役の「青春18きっぷ」だ。

 

しかしながら、これには些か懸念されることがあった。出かけようと決心すると気持ちが逸り、速やかな旅の実現には春季用となるが、その利用期間が4月10日までという点が引っ掛かったのだ。この時季、当地は例年まだ冬の様相が色濃く、必要な水回りの凍結防止策の判断を誤ると、帰宅後に悲惨な事態にでくわす恐れがあるのである。漠然と計画を立て始めた3月中旬、この冬はかなり暖かく春の訪れも早いだろうと思い、長期予報もそう言ってはいたものの、強い寒波がちょっと立ち寄っただけで事故は起こるのでやはり不安は否めない。

 

そこで他に適当な切符はないだろうか?――と探して目に入ったのが、「北海道&東日本パス」だった。こちらは春季用の利用期間が4月22日までと青春18きっぷより2週間弱長く、この頃になればほぼ問題はない――少なくとも危険度は大きく下がる。このパスの特徴は青春18きっぷと類似しているが、もちろん相違点もあるので、一応その主なものを挙げておこう。

・乗車できるのはJR北海道JR東日本普通列車、およびJR北海道線・JR東日本線、および青い森鉄道線いわて銀河鉄道線北越急行線で、それらの普通・快速列車の普通車自由席、JR東日本のBRT(バス高速輸送システム)が乗降自由
・有効期間は連続する7日間で、予約・購入時に使用開始日の指定が必要
・料金は11,330円(2024年春季用)

即ち、青春18きっぷに比べて1日当たりの料金は安く、第三セクターの一部路線も利用できる半面、使用日と利用地域には制限がかかるわけだ。

20240509-北海道&東日本パス

 

さて、長野県に居住している者がこの切符を利用して旅行するとなれば、目の向くのは自ずと北方、東北と北海道である。そこで取り敢えず手元にある最も新しい時刻表(2023年4月号)を開いて、一体どこら辺まで行けるのだろうと検討を始めた。その時にはもちろん、北海道が胸の中に大きく映っていたのだが、このパスで津軽海峡を越えるには北海道線特急オプション券、もしくは特定特急券の購入が必要とのこと。しかし前者は2024年春季の北海道&東日本パスには設定がなく、新函館北斗新青森間内相互発着に限って新幹線普通車の立ち席を利用できるだけの後者は用意されているものの、4000円という追加出費を考えると、パス本体価格との対比からして食指は動かなかった。加えて、北海道まで廻ると7日間では忙しくなり過ぎることもわかった。

 

 

 

 

そこで今回は北海道は割愛し、東北周遊に絞ることにした。できれば、計画はこれくらいのざっくりとしたものに留め、あとは行き当たりばったり、好きな所で列車を降り、見たり泊まったりしたいところだが、これは資金が潤沢な場合にのみ可能なことである。旅において交通と並び大きな出費を強いられるのは言うまでもなく宿泊ゆえ、いわゆる安宿のほとんどない日本国内では、懐の寂しい場合は手頃な宿の事前確保は必須であろう。

 

そこで、辿る経路や宿泊地のかなり入念な検討を行ってみたら、東北地方のかなり広範囲を様々な路線で巡り、各県にそれぞれ一泊するというなかなかよいプランができた。しかし改めてそれを見ると、この種の切符を使う多くの場合に陥りやすい落とし穴にどっぷりと嵌っており、できるだけ乗車距離を稼ごうとした結果、毎日がほぼ列車に乗りっぱなしで降車は宿泊のためのみ、ほとんどどこも観光しないものとなっていた。

 

確かに今般の旅の主眼は訪れる地点ではなく、そこまでの道程にあるのだが、かといって極力多くの路線を乗り潰そうという鉄道マニア的趣味は持ち合わせていない――というようりそうならないよう気を付けている――ので、やはり何ヵ所かは観光のために時間を取りたいと考えて再検討。最終的に宿泊地はかみのやま温泉・遠野(2泊)・大鰐温泉・酒田および会津若松とし、山寺・平泉・遠野・弘前ではちょっとした観光をすることに落着した。

 

ただ、上に述べたように、プランの立案に当たって利用したのは1年前の時刻表で、現在の列車ダイヤとの間に相違が生じているに違いない。実際、web上の乗換案内などを参照すると、いずれも軽微ではあるものの少なからぬ修正を要することが明らかとなったので、2024年3月号を購入して最終確認・調整を行い、計画を仕上げた。