旅も残り二日となったこの日は、酒田から羽越本線、信越本線、磐越西線を辿って喜多方へ至り、そこでちょっとした観光――というほどでもない町歩きをした後、最終宿泊地である会津若松へと向かう。
先ずは酒田駅7:02始発の列車に乗り村上へ。
この路線沿いにも、温海温泉・鼠ケ関というおくの細道ゆかりの地に加え、越後寒川駅から桑川駅辺りにかけての美しくまた奇観に富む海岸線「笹川流れ」といった魅力的な景観も数多点在しているけれど、今般はそれらを想いつつ車窓を眺めて只管移動である。
終点の村上駅で吉田行の羽越本線に乗り継ぎ、新潟に11時過ぎに到着、今度は信越本線の長岡行に乗り換えて20分、新津でさらに磐越西線会津若松行に乗車して喜多方へ向かった。
この最後の乗り換えには15分ほどの時間があったのだが、既に入線していた列車のボックスシートはほとんど埋ってしまっており、辛うじて見出せたのは進行方向逆向き通路側の一つ。
そのため些か条件が悪く、阿賀野川に寄り添うように走るこの列車の見応えある車窓の自然を逃すまいと首を少し捻る姿勢を知らず知らず長時間保っていたため、肩が凝ってしまった。
もう一つ目に付いて興味を覚えたのは、こちらは人の手になる、独特な形状の屋根を持つ家屋、時にはそれらが集まった集落である。
一見入母屋のようでもあるが、後で調べてもその様式については特に何も見出すことはできなかった。
喜多方へは午後2時前に到着。
駅構内の観光案内書で、周辺の観光マップと当地の名物である老麺(ラーメン)店の地図を貰い、荷物をコインロッカーへ入れて歩き出した。
磐越西線の列車内で軽く昼食は摂ったものの、これは意図的なことで、折角喜多方へ来たのだからやはりご当地名物老麺は食したい。
時刻が遅かったので既に昼の営業を終えている店が多かったが、蔵造りの建物の並ぶレトロ横丁商店街を歩いていると、大安食堂というこれもなかなか年代を経ているらしい営業中の店が目に留まったので入店し、オーソドックスな(?)醤油ラーメンを注文。
これが喜多方老麺の特質かどうかは知らないけれど、脂の浮いているスープは見た目とは裏腹にあっさりしており、太目の縮れ麺にうまく絡んでなかなか美味だった。
もっとも、750円という値からすると少々物足りなさを否めず、100円を足して大盛にしておけばよかったと少々後悔。
隣のテーブルで若い女性が一人で食べており、旅の途中かな――と思ったが、この店の従業員で賄いをとっていたことがあとでわかった。
食事を終えて大安食堂を出、レトロ横丁商店街をもう少し進んだ後、ちょっと道をずらしてみようと地図に記載された市役所通りへ折れ、二つ目の細い道をまた北へ入ると、神社の鳥居とともに大勢の人の作る行列が目に入った。
それがどこから生じているかと辿ると、やはりというか食事処。
こちらは空腹でもなく、そもそも長時間並んでまで何かを食おうという趣味はないので、その行列を横目に見て、近くにある神社を参拝してその場を離れた。
そこから細い路地を通ってレトロ横丁商店街へ戻り、蔵造りの建物はさらに北へと続いているようだったが、あまり欲張ると体力的・時間的にきつくなりそうだったことから、大和川酒造店・北方風土館に立ち寄って駅へ戻った。
新津からここまで我が身を運んで貰くれた列車は会津若松行だったので、喜多方へ寄らずにこの日の宿泊地である会津若松まで行き、有名な観光地でもあるこちらで時を過ごすという手もあった。
それを見送り喜多方で下りたのは、大きな町ではやや忙しくなりそうだったためだが、この選択により少なからぬ時間の浪費を強いられる結果となってしまった。
会津若松へは喜多方発15:52の列車で向かうつもりで駅へ戻ると、発車標に「SLばんえつ物語号」という文字が見えた。
そういえばそんな列車があったな、今日が運転日なのか――などとぼんやり考えている時、このSL列車に遅れが生じているとの放送があり、続いて、これから乗ろうとしている列車もばんえつ物語号運行との兼ね合いで遅延を来たしているという。
どれくらい遅れただろう、乗車予定列車が喜多方へ着き、それに乗り込んで何とか座席は確保できたものの、「当列車の今後の運行がどうなるかは不明」といった、何とも頼りない車内アナウンスが繰り返されるうちに遅れは次第に嵩んでいった。
結局、SLばんえつ物語号は一時間ほど遅れて喜多方へ着き、その発車後、漸くこちらの列車も動き出した。
あとでこれは車両故障によることを知ったが、今般の旅では本当に遅延が多かった。
本来なら、駅へ進入してくるSLばんえつ物語号の雄姿を画像に収めたいと思うところだが、トラブルを起こして迷惑を蒙る元凶となったためか、あまりその気持ちは湧いてこず、かといってまったく看過するのももったい気がしたので、ともかく乗降ドアの窓越しに連写してみたものの、やはりいい画は得られず。
周りも一様にテンションは低く、恨めしそうな眼差しでぼんやり眺めている人がほとんどだった。
磐梯山の秀麗な横顔を遠く見て会津若松へ到着した時には既に17時半となっており、心理的な疲労感もあったことから、そのままこの日の宿「ふじみ旅館」さんに入った。
ここはご夫婦でお二人切り盛りしているらしいこじんまりした宿で、明るい応対が非常に心地よく、立地も駅から徒歩でほんの2, 3分なので鉄道利用の旅にはありがたかった。
宿のすぐ近くに日帰り温泉富士の湯があったけれど、土曜の夕方で混雑が懸念されたことから、おとなしく宿の風呂を貰い、例によって駅前のスーパーマーケットで調達した弁当で夕食を済ませると、腹のこなれるのを待って夜十時には床に就いた。
翌朝は6時前に宿を出て駅へ向かわねばならない。