蓼科高原日記

音楽・本・映画・釣り竿・オーディオ/デジタル機器、そしてもちろん自然に囲まれた、ささやかな山暮らしの日常

令和6(2024)年・春[5]―リゾートしらかみで五能線を辿る

旅五日目の目当ては、五能線を辿ることである。

 

当初、それには各駅停車の普通列車を利用するつもりだったが、宿泊地を大鰐温泉へと変更したことで一旦弘前へ戻ることが必要となり、時間的にややきつくなったこともあって、「リゾートしらかみ」へと切り替えた。

 

この快速列車は、JRの謳う「のってたのしい列車」なるものの一つで、指定席券(840円)が別途必要となるものの、この旅で使っている北海道&東日本パスでも指定券を追加購入すればよく、旅に少しアクセントをつける意味でも――との想いから計画の早い段階で予約をした。

 

その際に注意したのは、海側の窓際席を確保することである。

 

えきねっとの予約ページに記載された座席表(シートマップ)からは、D席がそれに該当するように見える。

 

しかし、何となく不安があったので念のためネットで調べてみると、スイッチバックの行われる関係でA席が海側となることを知り、危ないところだった――と胸を撫で下ろしながら、リゾートしらかみ2号青池編成4号車の当該席を予約した。

 

その時にはまだほとんどが空席、さらに一週間前くらいになってもまだ十分に余裕があったので、GW前の平日だから混雑はないのかもしれないと思ったが、当日、弘前駅でいざ乗車してみると多くの座席が埋まっていた。

 

やはり人気の高い列車らしい。

 

20240522-(1)リゾートしらかみ

 


さて、秋田方面へ向かうリゾートしらかみの4号車は先頭車両で、その先端部に前方を展望できる席が設けられているが、既にそこに一人が陣取っており、そして結局、終点の秋田までそこを独占し続けた。

 

その席の利用に明に制限が規定されているのかどうかは定かでないものの、眉を顰めざるを得なかった。

 

 

 

 


リゾートしらかみにおいてはさまざまなイベントが行われ、今般乗車した2号では、鯵ケ沢駅から五所川原駅までの間に津軽三味線が演奏された。

 

それを直に聴きたい気持ちはあったのだけれど、一方車窓の愉しみも捨てがたく、演奏は車内放送を通じて各車両へも流されるとのことだったので、自席に留まり車窓を眺めながら聴くことにした。

 

そこに現前する風景の中での双璧と言えば、りんご畑と日本海であろう。

 

このうち前者がもっとも際立つのは樹々が花または実を纏う季節、片や日本海の方は暗い空の下、雪を伴って吹き荒ぶ烈風に荒波の立つ冬こそ白眉として間違いあるまい。

 

今回の旅はいずれの時季にも合致しなかったけれども、空にはこの日も灰色の雲がかかって陽射しを遮っていたため、暗い日本海の風情の一端は感じることができたように思う。

 


観光停車の意味が大きいのだろう、千畳敷では15分停まり、発車3分前には警笛を鳴らして知らせてくれるというので、もちろん列車を降りて海へ向かった。

 

海岸を容易に散策できたのは、風がほとんどなく波も穏やかだったからで、冬季にはこの辺りも波の咆哮に包まれるのだろうか。

 

ここもまた改めて、そんな時季に訪れたい場所となった。

 

20240522-(2)千畳敷

 


もう一つ、是非この目で見たかったのが驫木駅である。

 

車窓を通してそれは一応実現し、嬉しかったのだが、ここはやはり列車から降り、駅の外へ出て海を背景にしてこそ画になる景物のようで、またちょっとした宿題を課された気分にもなった。

 

この宿題は、もちろん各駅停車の普通列車で果たしたい。

 

 

 

 


東能代駅五能線の旅は終了である。

 

しかしリゾートしらかみは引き続き奥羽本線を辿って秋田駅へと向かい、午後1時半に到着。

 

リゾートしらかみの車内で予め用意してあった弁当をつかい、それからまだそれほど時間は経っていなかったが、少し腹に寂しさを覚えた。

 

ここでの滞在時間は二時間ほどしかなく、食事のためにわざわざどこかへ足を伸ばすほどのことでもない――と思っていたら、駅構内に手頃な蕎麦屋が目に入った。

 

秋田と言えば稲庭うどんが有名で、この店のメニューにもあったけれど、900円という結構な値だったため注文は差し控え、おとなしくとろろそばを食してさっと腹を満たした後、残りの時間でできるちょっとした観光はないものかと、やはり駅構内にある案内所で駅周辺の観光マップを所望するとともに要望を伝えたところ、千秋公園なら徒歩圏内だし、必要ならバスも利用できるとのことだったでここを訪れることにした。

 

地図によれば距離は2kmほど、荷物の重さは些か気になるものの、公園内で歩き回ることはないので適度な運動だろうと思い、コインロッカーなどは使わず背負ったまま向かった。

 

千秋公園秋田藩20万石佐竹氏のかつての居城、久保田城の跡で、大手門の堀なども残っているが、そこに設置された桟橋が折悪しく工事中で、ここを辿りながらの景色を得られなかったのは少々残念だった。

 

桜は案内所で言われた通り満開過ぎ、しかし時折吹く強めの風に舞い散る花弁を見ることができ、遠野および弘前での様子と合わせ、図らずも花の諸段階を満喫する旅となった。

 

20240522-(3)千秋公園

 


秋田駅へ戻り、羽越本線15時半過ぎの列車に乗車。

 

この日の目的地にして宿泊地である酒田までの所用時間は2時間弱だ。

 

列車の座席はすべてロングシートで、昔訪れたことのある山形県の山々を眺められるように座ったが、五能線とはまた少し趣の異なるであろう日本海も見たく、海岸線近くを走行する際は適宜頭を回らした。

 

おくの細道ゆかりの象潟なども今回は素通りとなり、少なからず心残りではある。

 

 

 

 


酒田に到着すると、路面を濡らし、そこに水跳ねを生じるくらいの雨が降っていたので、傘を差してこの日の宿である酒田ステーションホテルへ歩を運んだ。

 

ここは類別すればビジネスホテルに属するであろうが、バイク旅行者の利用も念頭に置いているらしく、フロントにはその手の展示物が置かれ、ライダー向けの宿泊プランもあるようだ。

 

当日の宿泊料金は一泊食事なしで3,200円。

 

この安さの理由は、主としてエレベーターがないこと、およびフロント係が夜間から翌日の午後にかけて不在となるためで、後者はともかく、高層階の部屋が当てがわれるとポットや備品がフロントに用意されていることもあり不便の感を禁じ得ない。

 

しかしながら部屋は広くないものの清潔だし、駅近くの立地ながらこの料金で泊まれるのは何よりありがたい。

 


部屋に荷を解いて夕食を摂ろうと外へ出たものの、雨のしとしと降る中、既に日暮れて闇の下りた町をあちこち彷徨う気にはなれず、駅との間の道沿いに目に付いた「定食屋おおた」へ入店。

 

味・量・値段いずれも瞠目するほどではなく、ごく一般的な食堂だが、親切な応対で提供された手作り作り立ての料理を久しぶりに口にして、満足して店を出た。

 

ついでに翌日の朝食も確保しておこうと、線路を越えた駅の向こう側にあるスーパーマーケット「ト一(といち)屋」まで行き、閉店時刻近くで半額となっていた弁当を購入して宿へ戻り、連日の早起きによる寝不足を解消すべく早々に就寝した。