蓼科高原日記

音楽・本・映画・釣り竿・オーディオ/デジタル機器、そしてもちろん自然に囲まれた、ささやかな山暮らしの日常

紀伊田辺・白浜観光

旅の二日目は列車には乗らず、紀伊田辺と白浜の観光に当てた。

 

もっとも、徒歩では行動範囲があまりに狭くなってしまうため何らかの交通手段を利用する必要があり、バスとレンタサイクルに白羽の矢を立てた。

 

バスには一日乗り放題となるとくとくフリー乗車券があり、料金は安く、さらに観光地だけあって便数も多いことから、当初はこちらに傾いていたのだが、日本のナショナル・トラスト運動嚆矢の地として、また和歌山のウユニ塩湖としても知られる紀伊田辺の天神崎も是非訪れたく、ここへのアクセスには上のフリー乗車券は使えないため、レンタサイクルを利用することにした。

 


連泊なので大きな荷物はもちろん宿に置いておくつもりだったが、部屋は伝統的日本家屋の一室、引き戸のため鍵がかけられない。

 

盗難に遭う恐れは別に感じなかったものの、出先でペットボトルを携えて歩くことがあるだろうし、その場合は手に持つよりバックパックに入れて背負った方が楽、さらに白浜で温泉に浸かることも考え着替えも持って行くことにしたので、バックパックにそれらを入れて宿を出た。

 


紀伊田辺駅に隣接する田辺市観光センターに九時少し前に到着すると、営業開始前ながら既に数人の外国人観光客が待っている。

 

貸出可能な自転車は五台、もしかしたら打ち止めになってしまうかもしれない――と些か不安を覚えたけれど、その場合はバスに切り替えればいいだろうと思いながら、ドアが開かれ中へ入った彼らに続いたところ、自転車を借りたのは一人だけで、無事こちらも一台を確保できた。

 

ここでレンタルできるのは電動アシスト自転車で、後でその恩恵を大きく受けることになった。

 


観光センターで紀伊田辺駅周辺、白浜の観光マップおよび後者までのルートマップももらい、はじめに天神崎を目指してペダルを踏み出した。

 

天神崎までは3km弱と近く、道もほぼ平坦だったので電動アシストはオフにして軽快に漕ぎ進めたが、それとは別の所で少々辛いことがあった。

 

ちょっとした段差などで生じる衝撃が、旅行前に痛めた右手親指にかなり応えたのである。

 


目的地の少し手前でやや大きなアップダウンが現われ少々きつくなったため電動アシストを作動させたところ、簡単に乗り越えることができ、先ずその有難味を実感した。

 


天神崎へ着いてみると海は干潮時に当たっており、海底の岩が広範囲に現われている。

 

これはこれでこの名所の一つの売り、なかなか面白い眺めではあったが、ウユニ塩湖を髣髴させる海面が鏡のように空を映す光景は、反対の潮加減に現出するものゆえ目にできず些か残念だった。

 

20240923-(1)天神崎

 


所々に海水を湛える広大な岩場にぽつぽつと見える人影はほとんどが釣り人らしく、人によっては数百メートル先に腰を据えて竿を出しており、潮が満ちて来る頃合いを誤ると危険ではないかと他人事ながら不安を禁じ得なかった。

 

さらに一層危惧されるのは、言うまでもなく地震とそれに伴う津波だ。

 

しかしこれも余所者が気を揉むまでもなく地元でしっかり意識警戒されており、各所にそこからの避難場所と経路を示す表示板が立てられていた。

 


次は白浜は白良浜まで約14kmのちょっとしたサイクリングである。

 

何分土地勘がないので、Google Mapを搭載したスマートフォンバックパックの外部ポケットに収めて自転車の前籠に入れ、そこから発せられる音声ナビに主に従いながら必要に応じ地図を参照して進むことにした。

 

 

 

 


その白良浜までの道程はなかなか大変だった。

 

まず、10km以上というまとまった距離を走ったのは数十年ぶりのことで、走っても走っても一向に目的地までの距離が縮まらない感覚に苛まれた上、日本の道路の例に漏れず自転車の通行はさほど考慮されていないことから、少なからぬ危険を身近に感じながらの走行を強いられた。

 

さらに思いの外アップダウンが激しく、もし電動アシストがなかったら、乗り慣れていない自転車ということもあり恐らく途中で挫折していたのではないかと思う。

 

当初はアシストモードをオート(標準)にして走行していたが、バッテリーの減り方から紀伊田辺へ戻るまで持たないのではないかという懸念を覚えたので、ロング(弱)に切り替えた。

 

急な上り坂だと少々足に応えたものの、腰を浮かせるようなことはせずに全て乗り越えることができ、本当に助けられた。

 


白良浜へは正午前に到着。

 

これまでに与論島久米島そしてモルディブといった島々の海を訪れているので、果して本州のビーチは如何――という気持ちがあったけれど、評判通りなかなか綺麗でそこまでに嘗めた苦労は十分に報われた。

 

20240923-(2)白良浜

 

 

途中のスーパーマーケットで買ってきたピザで昼食を摂りながらしばし海や砂浜を眺めた後、続いてさらに足を延ばして千畳敷を目指した。

 

2kmほどの道程ながら、疲労を来たしていたこともあってそれまで以上のアップダウンを感じつつ、しかし着実に距離を消化して無事辿り着いた。

 

この春の東北旅行において五能線で訪れた青森県深浦の千畳敷と比べると、こちらが平坦に展開していて広さを見る者に強く印象付けるのに対し、白浜の方はちょっとした高台へ向けての傾きをもって広がっているため、荒々しくも変化に富んだ表情を見せている。

 

そして上部から眺めた明るい景色は、大洋ならではの見事なものだった。

 

20240923-(3)千畳敷

 


予定ではさらに一足進んで三段壁まで行くつもりだったが、千畳敷へ入る前にそこへ続く道を眺めたところ一層大きな苦労を強いられそうだったことに加え、洞窟へのエレベーター料金が1500円と記された表示板を目にして大きく意気を殺がれてしまったため、ここで引き返すことにした。

 

そして当記事の前段に記した温泉に浸かろうかという計画も、そうして折角汗を流しても復路の自転車行で元の木阿弥になってしまうし、一旦寛いで弛緩した筋肉で果たして戻れるだろうかとの懸念も強く感じたことから、やはり断念して真っ直ぐ紀伊田辺を目指しての帰路に就いた。

 


行きはよいよい、帰りは――という童謡があるけれど、ことこの時に関しては復路の方が圧倒的に楽で、実際の所要時間はさして変わらないのに感覚的には半分ほどの時間と労力で着いてしまった。

 


自転車を返却して宿へ戻ると午後三時。

 

すぐにシャワーを浴びて出ると、今夜の泊り客の外国人二人連れを女将が案内して来た。

 

その二人の部屋は当方の隣である。

 

伝統的日本家屋の部屋に泊まれるのを喜んでいるのが薄い壁越しにはっきりと窺えたが、こと居住性については、プライバシーをはじめ馴染みのない点が多く、些か快適さに欠けたのではないかと、他人事、余計なお世話ながら少々気になった。

 

しかしともあれ一泊だけのこと、良い経験になったことは間違いないだろう。

 


宿で一息ついた後、夕方に散歩がてら闘鶏神社へ参拝した。

 

20240923-(4)闘鶏神社

 

更に八幡宮へも向かったが、石段の麓に着いた時には既に宵闇が濃くなっており、それでもと上り始めたものの、その直後顔全体に蜘蛛の巣がかかって先が思い遣られたことから、こちらへのお参りは他日を期すことにして宿へ戻った。