蓼科高原日記

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黒死荘殺人事件(黒死荘の殺人) ジョン・ディクスン・カー[カーター・ディクスン](著)

黒死荘殺人事件(黒死荘の殺人)」は、アメリカの推理小説作家ジョン・ディクスン・カーの手になる作品で、現在我が国ではこれが著者名として冠されることが通例だが、本来はカーター・ディクスン名義で発表された第二作である。

 

20221217-黒死荘殺人事件

 

そして、このペンネームは、1933年に「弓弦城殺人事件」を発表した際、アメリカの出版社が無断でカー・ディクスン(Carr Dickson)の名を出したことで著者との間に紛糾が生じ、その打開策として使われるようになったようだ。

 


カーと言えば、怪奇的な雰囲気を湛えながらも論理的ストーリー展開を具えた本格派の作品が多く、また密室の謎解き物を得意とすることは広く知られているが、この「黒死荘殺人事件」も、そのタイトルが既に暗示するように、カーの本領が遺憾なく発揮された一作と言えよう。

 


もう一つのカーの特色として、アメリカ人でありながら作品の舞台を主にイギリスに設定することもご存じの通りで、同作もその例に漏れず、通称H・Mことヘンリー・メリヴェール卿が事件の解決に当たる。

 

イギリスを物語の舞台とする点については、何のことはない、カーがイギリスを旅行した際(だったはず)に知り合った同地の女性と結婚し、以後、自身主にイギリスで暮らしたことによるようだ。

 

しかしながら、カーの作風からすれば、気候や歴史をはじめとするさまざまな風物において、確かにアメリカよりもイギリスの方が相応しく、作家にとってはそこに生活することとなったのは運命の親切な計らいだったといえよう。

 


ここで我が国におけるカー作品の受容について一言すると、比較的早く紹介されたもののその時はあまり顧みられず、第二次大戦後に江戸川乱歩らの言及もあって脚光を浴びるようになったらしい。

 

その作風から、横溝正史との関係が自ずと連想されてくるが、実際、御当人もカーから影響を受けたことを公言している。

 


そんなこともあってか、現在も日本での人気は決して低くないことは確かだが、クリスティなどに比べると一般的知名度は大きく劣ることは否めない。

 

多くの読者に広く親しまれるのではなく、数は限られるがその作品を深く愛好するマニアの存在するタイプの作家の一人と言うべきだろう。

 


当家の書棚にはまだ次の作品が未読で鎮座しており、これらを繙くことはもちろん、いつの日かそうできると思うのも、また愉しみだ。

 

盲目の理髪師(1934)
三つの棺(1935)
赤後家の殺人(1935)
火刑法廷(1937)
皇帝のかぎ煙草入れ(1942)
カー短編集3(1947)