アメリカのSF作家ラリイ・ニーヴン(Larry Niven)の中短編集「中性子星(Neutron Star)」には、次の8編が収録されている。
・中性子星(Neutron Star)
・帝国の遺物(A Relic of the Empire)
・銀河の<核>へ(At the Core)
・ソフト・ウェポン(The Soft Weapon)
・フラットランダー(Flatlander)
・狂気の倫理(The Ethics of Madness)
・恵まれざる者(The Handicapped)
・グレンデル(Grendel)
これらの内はじめの6つは1966年から翌年にかけてイフ誌上に、「恵まれざる者」は1967年のギャラクシー・サイエンス・フィクション誌に発表されたもので、最後の「グレンデル」だけは同書「中性子星」のために書き下ろされたということである。
イフ誌といえば、1964年12月号に「いちばん寒い場所」を掲載して同作家のデビューの機会を提供した雑誌であることを考え合わせれば、このアンソロジーは、ニーヴンが斯界における地歩を固めてきた道筋を辿るに好適の一冊に違いない。
ニーヴンの作品の特徴としては、アーサー・C・クラーク、アイザック・アシモフなど一世代前の作家たちにより進められたSFの社会的・思想的深化の方向から舵を切り直し、このジャンルが当初目指したであろう、科学技術的な要素を含み娯楽性も具えた物語に仕上げられている点を挙げられると思うが、「中性子星」を構成する諸編もこれを色濃く纏っている。
特に、表題作は1967年のヒューゴー賞短編部門で栄冠を勝ち得ていることからも窺われる通り、物理学的素養の上に立つストーリーテラーとしての本領を遺憾なく発揮した秀作と言えよう。
ただ、やはり細かなところに目を凝らすと粗は見えて来るもので、作品の眼目となる物理事象に関し、人類より遥かに優れた科学技術力を誇る「パペッティア人」がそれを了知できなかったこと、およびその理由が彼らの母星に月(衛星)がないため――という設定およびちょっとした落ちには、不自然さを禁じ得ない。
また、これもあくまで個人的な嗜好の問題ながら、描出される登場人物のエピソード、およびそれを引き起こす心理に共鳴し難いのも正直なところである。
もっとも、そもそも同書がこのようなことを気にしながら読む類の本ではないだろうことを鑑みれば、その本質的価値に対するマイナス要素としては微々たるものであることは言うまでもない。
ところで、「帝国の遺物」に登場するモチーフは、確か小松左京の短編にも現れていたように思う。
どちらかが他方の作品から意識的に借用したのか、将又偶然の一致か……
ちょっと興味のあるところだ。