長野駅へは、以前首都圏に住んでいた時、スキーのため何度か立ち寄ったことがあるが、目指したのは黒姫や妙高高原だったので、篠ノ井線同様、豊野から先の飯山線を辿るのも今回が初めてとなる。
その篠ノ井線で長野駅に到着すると、空はまた雲が切れてそこから陽射しがこぼれていた。
これから乗る列車の発車予定ホームで待つこと約十五分、それらしい姿が入線して来たが、二両編成の前後の車両が相異なっている。
前方の車両が、恐らく観光客向けなのだろう、時代がかった――といっても本当に古いのではなく、それを模したものだった。
事前には知らなかったことで、従ってこれを目当てにしていたわけではないのだが、待っていた目の前にこの観光用車両が停まったので素直に乗車。
内装も全体的に民芸調に整えられており、座席は、出入口付近に長シートの短いもの(?)がある他、四人掛けと二人掛けの対面型ボックス席がそれぞれ通路の左右に並んでおり、ここでも後者の四人掛けの一席に座を取って発車を待つこと暫し、定刻に九割方席の埋まった状態で列車は走り出した。
それにしても窓外に雪が少ない。
篠ノ井線沿線も全体的にそうだったが、豊野を過ぎ日本有数の豪雪地帯を行くと言われる飯山線へ入っても、雪が多いとの印象は薄い。
もっとも、そもそも我が家周辺が冬の間ずっと雪に閉ざされるのだから、「雪深い」という言葉から喚起される景色は雪に馴染みのない人とは大きく違い、これらの人々から見ればやはり相当の雪景色なのかもしれない。
それに、路線の名称ともなっている飯山辺りへ来ると実際雪の量も次第に増えてきた。
丁度その頃、車掌が通りかかったので、先に松本駅で乗車券を購入した際のやり取りを伝えて越後川口から先長岡までの運賃清算を希望した。
そして言われた追加料金420円を何気なく払ったのだが、数瞬の後、おや?と思った。
このシリーズの端緒である以下の記事に書いた通り、事前に調べて得た、目的地長岡までの運賃は3,700円なのに対し、松本で購入した、途中駅越後川口までのそれは3,340円、従ってここでの支払いを加えると60円の超過となるのである。
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ここでもまた、どういう理由で金額に齟齬が生じたのか少々気になり――というより好奇心が生じたため、遠ざかって行く車掌を呼び止めようかと思ったのだが、何分金銭に関わること、60円を巡ってあれこれ言う我が姿を周囲、特に斜向かいに座っている高校生の女の子の耳目に晒すのはどうも気が引け、後でネットなどで調べればよかろう――と自分に言い聞かせて思いとどまった。
いや決して、本当に、60円をどうこう言うつもりは毛頭なかったのである……
それから間もなく、列車は戸狩野沢温泉へ着き、上の女の子を含む多くの乗客が降りてしまうとともに、ここで後方車両は切り離され、その先は前方一両のみでの運行となった。
どれくらい時間が経過しただろう、森宮野原という駅でしばらく停車した際、何気なく反対側の窓の向こう、駅のホームに目を向けたところ、「日本最高積雪地点」と書かれた標柱が見えた。
1945(昭和20)年2月12日、7.85mの積雪を観測したのを記し、標柱は先端がその際の雪の到達位置に来るよう立てられているらしい。
無論、「日本最高」というのは無条件のものではないだろうけれど、やはり人里におけるこの積雪量に瞠目しない者はあるまい。
そして、この大雪が戦争末期、直接の被害はないにせよ物資の欠乏をはじめとするさまざまな生活の逼迫下に降ったことを考え合わせれば、人々の蒙った苦しみも自ずと思い遣られるというものだ……
(続く)