蓼科高原日記

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日本の民話 (企画編集:未来社、総発売元:ほるぷ出版)

未来社が企画編集し、ほるぷ出版から発売された「日本の民話」は、昭和32(1957)年の第一巻「信濃の民話」にその源を求めることができるようだ。

 

そしてこの流れから、いくつもの民話がとり上げられ、かつて「まんが日本昔ばなし」としてテレビ放送されたそうである。

 

当方の書棚に鎮座しているのは、確かオークションで「全26巻」と謳われていたもので、日本の地方ごとに、そこに伝わる物語が分類されて各巻に収載されている。

 


しかしその後、「全38巻」と銘打たれた、同じ二つの出版社の同名の全集のあることを知り、両者の関係がどうなっているのかという疑問が生じたので調べてみたところ、どうやら第一期として26巻が出、すぐ続いて第二期の12巻が出版されたらしい。

 

従って、真の「全」は38巻物に与えられるべきわけだが、26巻に割り振られた地域を見ると、これだけで既に日本全国を網羅しており、第二期12巻は叢書としての内容をより充実させる補遺という意味が大きいようにも思われる。

 


因みに、昭和60(1985)年頃には地方分類を新たにした「新編日本の民話」が世に出、さらに今世紀に入っての2015年には、「[新版]日本の民話」(全75巻・別巻4巻)が堂々たる装い(と価格!)で再刊されたことを知った。

 


私が「日本の民話」を入手したのは数年前のことだが、以後長らく開くことなく、今般漸くその第一巻を繙いた。

 

20221110-日本の民話1

 

この巻は「津軽篇/岩手篇」で、青森県および岩手県に語り伝えられてきた民話を、より細かな地域ごとにまとめて紹介している。

 

ただ、物語の編者は別で、その採集方法も異なっていることから、一口に民話と言っても、話の長さをはじめとしてその構成や内容、そして全体としての趣には顕著な相違が見られる。

 


具体的には、津軽篇では語り部の口から直接聞いた話を文字として定着させているのに対し、岩手篇の方は既に文字として記されたものから収集しているため、自然な結果として、物語としてのまとまりや充実度という面では後者が圧倒的に優れていること、否定しようもないが、片や前者においては、自然・人間両面において厳しさに満ちた暮らしの中で生じたのであろう、人々の素朴な心情や考え方が如実に看取され、これはこれで興味深いものがある。

 


民話や伝承においては、物語の一部の散失、その意図的な補填、長い時を通じての変容や複数の物語の混淆などが生じるのが当然で、実際、今般読んだ中にもそれらが散見された。

 

これらをもう少し深く追えばより面白みも増すだろうし、さらに仕事としてこの辺りの包括的な分類や整理を行うことの意義も小さくないと思われる。

 

もっとも今の時代、果してその種の取り組みが正当に評価されるかとなると、誠に遺憾ながら「唯」とは言い難そうだ。