蓼科高原日記

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日本史通論 武藤誠(編)

「日本史通論」は、以前当ブログでご紹介した「西洋史通論」と同じく、大学教養課程の歴史講座における用途を企図して創元社から出されたテキストで、ご想像される通りさらに一冊「東洋史通論」もあり、これも当方の書棚に並んでいる。

 

創元社「日本史通論」の初版は1956(昭和31)年とかなり古く、1967年に第2版となり、私の手元にあるのはその第13刷、1987年のものだ。

 

20230310-日本史通論 武藤誠(編)

 


同書の最大の特徴は、編者もはしがきに謳っているように、多くの通史書の記述形態とは異なり、日本の歴史の全過程を社会・政治、経済、文化の三領域に縦に分け、それぞれについて一貫した論述を行っている点である。

 

改めて言うまでもなく、これらを独立に取り扱った政治史、文化史といった書籍はこの形で記述されるのが普通で、各論としては別段新奇でもないわけだが、歴史のさまざまな側面を包含した通史で同じ構成を採ったものは、あまり見当たらないように思う。

 

その理由としては、各分野を詳述すれば大部になり過ぎ、反対に適度な分量に収めようとすれば内容的に薄くなる嫌いがあり、結果としてそれぞれの時代の一体的全体像の見えない、不完全な各論の寄せ集めに陥る危険性を多分に孕んでいるためではなかろうか。

 


さて、今般ちょっとしたきっかけで旅心が疼き出して旅行に関する書籍や映像ソフトを少なからず入手したことは以下の記事に述べたが、それらに取り上げられている風物や事物には、ほとんど例外なく歴史的事実、もしくはより古い神話伝承との繋がりがあるわけで、この双方に対する知識・知見を身に具えていれば、さらに興味理解が深まり一層愉しめるに違いない――との思いに至ったためである。

 

lifeintateshina.hatenablog.com

 

無論これは、実際の旅行に出かける場合も同様であり、ここに先の「西洋史通論」に続いて、という思いが加わり、長らく書棚に眠っていた同書を引っ張り出すこととなったのだ。

 

 

 

 


同書を一読して胸に湧いたのは、先ず、上の危険性は幸い具現しておらず、各領域における歴史の流れを一貫的に描出するという著者・編者の企図は十分に達せられているという感想である。

 

社会・政治・経済・文化さらに国際関係、それぞれの専門家の筆になるからであろう、重要歴史事項の遺漏ない紹介と同時に、全体的な按配もうまくなされている。

 

ただ、本文200ページにこれだけの内容を「詰め込んだ」印象は否めず、結果として図版が一つも掲載されていないのは、人物・事物についての視覚的イメージの欠如をもたらし、延いては知識としての定着を困難ならしめていること少なくないに違いない。

 


そこで読了後、この点を補うに適当な他書はないだろうか――とつらつら探索したところ、当方も高校生時代に使っていた記憶のある山川出版社の教科書を一般向けに焼き直したらしい、「もういちど読む山川日本史」を見つけ、なかなか良さそうだったので新たに購入。

 

「日本史通論」とこれとを足掛かりとして岩波の「日本歴史」を踏破すれば、恐らくどんな名所旧跡の所縁に接しても、我が国の歴史におけるその位置付けが自ずと頭に浮かぶに違いない。

 

しかしそこへ辿り着くのは何時のことやら――いや、そもそも到達できるかどうかさえ、実はまったく心許ないのだが……