蓼科高原日記

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東洋史通論 (創元社)

先に取り上げた「日本史通論」「西洋史通論」に続き、創元社は「東洋史通論」を出版した。

 

20230512-東洋史通論 (創元社)

 

各タイトルから、これらをもって全世界通史を世に送ろうとの意図を顕示したかったのだろうことがわかる。

 


ここで「意図があったのだろう」ではなく、上のように捻くれた表現にしたのは、この東洋史通論で扱われているのは独り中国史のみで、ペルシャ・インドなどの南西アジアや東南アジア諸国の歴史についてはほとんど記述がなく、嫌らしい作為を書名に感じるためだ。

 

ほとんど――というのも実はかなり好意的に見た上のことで、中国との関係においてのみごくわずかな文字が割かれているに限られ、決してそれら諸国に焦点が当てられているわけではない。

 

即ち、実態は完全なる「中国史通論」なのである。

 

 

 

 


そのような書籍の巻末に「アジア現勢要図」なる、これは確かにアジア地域を包含した概略図を一枚載せている点も、一層姑息さを強めていると言うべきで、「日本史通論」「西洋史通論」がそれぞれ1956(昭和31)年、1963(昭和38)年に出されており、「東洋史通論」の方は初版が1964年となると、最早上に述べたことは単なる私の批判的憶測ではないはずだ。

 

――と、個人的に常日頃からマスコミの姿勢態度に辟易していることもあって憤懣をぶちまけてしまったが、半世紀以上前から、比較的謹直と考えられている出版社もこの醜い衣を纏っていたという事例を目の当たりにすると、何とも遣り切れない。

 


もっとも、同書を中国史通論と捉えれば、決して粗悪な書籍ではない。

 

位置付けは前の二書同様、大学教養課程における講義用テキストとして想定されており、この観点から見ても適切な構成・内容を具えている。

 

日本史通論とは異なり、図表の取り入れられているのも好もしいが、欲を言えばもう少し見易いものを、掲載位置についてもそれを参照すべき本文の近くにする、あるいは「図xxを参照」といった注記を付すといった工夫が欲しい。

 


ともあれ、中国史通論としてそれなりに通読したのだけれど、奥付を確認してまた少々嫌な気分を味わわされてしまった。

 

当方の手元にある一冊は1991年発行、これはいいとして、第1版第30刷と記されている。

 

すなわち、初版から30年近く改版されていないということだ。

 


当然、本文のエピローグは共産党の指導の下で着実に民衆の幸福が増進してめでたしめでたし――で終わってしまっており、同書の出た時には既に発生を見ていた天安門事件など、負の側面は記載されていない。

 

この30年間に生起した他の事件や推移を鑑みても、改版を怠った出版社の姿勢には疑問を抱かざるを得ない。

 

改版大学生向けテキストという性格上、何もせずともある程度部数が稼げる状況に胡坐を掻いている姿が自ずと目に浮かんでくるのだ。

 


この心地悪さを払拭する口直しが欲しくなり、日本史に続いて「もういちど読む山川世界史」を新たに購入した。

 

こちらは看板に偽りないはずだが、これ一冊に西洋東洋の歴史を収めているので、内容の薄くなるのは致し方ないが、それは当方の書棚に鎮座する岩波講座「世界歴史」が十分過ぎるほど補ってくれるはずだ。