右チャンネルからの出音不良が再発したため水洗いを今一度施したトリオ(TRIO)のプリメインアンプKA-5300は、幸いその後調子よく鳴ってくれている。
これを聴き始めてから、気が付くといつの間にか一月近くが経過しており、エージングも一通り済んだであろうから、ここでまたその主な仕様および音質についての個人的印象を記しておきたい。
――と考えて先ずネットで発売年などを調べたのだが、人気のないモデルだったのか、ほとんど情報を得ることができなかった。
しかし、これと並行して1980年を挟んだ時期のオーディオ情報誌も一冊手元に置いておきたいと探していたところ、1978年10月発行の「FMレコパル増刊号」を入手することができ、届いたそれをぱらぱらとめくっている内、「価格別コンポーネント1000」という記事の中にKA-5300を見出した。
その時既に世に出ていたのか、それとも近日発売予定製品として取り上げられたのかは定かでないが、いずれにせよ私が考えていたよりは数年新しいものであることをこうして知ったのである。
因みに価格は42,000円ということで、当時の物価水準からすれば中堅下位モデルといったところだろうか。
スペックは次の通りで、同時代同価格帯の他製品の数値とほぼ同様、特に目立つところはないように思われる。
強いて挙げれば、サイズ――特に幅が若干コンパクトに抑えられている点くらいだ。
実効出力(20Hz~20kHz):40W+40W(8Ω)
全高調波歪率:0.05%(定格出力時8Ω)
SN比:Phono 83dB, Tuner 95dB
外形寸法:幅380x高さ140x奥行255mm
重量:7.8kg
ただ、数値とは異なり、その面構えと機能面はなかなか個性的で、これも既にご紹介したほぼ同じ頃のプリメインアンプ、テクニクスSU-8055がVUメーター、マイク入力、サブソニックフィルターなどを具えた複雑な表情を見せているのに対し、KA-5300の方はラウドネスすら持たない極めてシンプルな構成で、しかもトーンコントロールをジャンプするスイッチが用意されている。
これらのことから同機に対するメーカーの姿勢が明確に窺われると同時に、見方によっては面白みのないデザインとなっているけれども、個人的には正にこの点に惹かれた部分が小さくなく、実際、すべてが大ぶりなボタンやつまみは実に操作性がよく、また水洗いのための分解の際に確認したことだが、巨大なボリュームつまみはアルミ無垢で、操作感も申し分ないことは強調しておきたい。
では音質の印象に移ろう。
スピーカーとしては、これも新参のダイヤトーンDS-251を接続した。
それまでこのスピーカーはテクニクスSU-8055で鳴らしていたこともあり、自然それとの比較となるが、全体的印象としてはKA-5300も同じ方向・傾向の音世界を描き出すように思う。
もう少し具体的に、しかし標語的に言うなら、どちらも音楽の全体像をエネルギッシュかつ躍動的に表現してくれるのである。
上に書いた通り、テクニクス、トリオ両メーカーのそれぞれのアンプに対するコンセプトには違いが感じられることを鑑みると、不思議ではある。
しかし無論、印象の異なる部分も明らかに存在しており、高域においてSU-8055が輪郭線の明確なかっちりとした質感を現出するのに対し、KA-5300の音はやや柔らかなテクスチャーを帯びている。
後者のこの特質は他の帯域にも聴かれることで、これが全体として音楽の大らかさと豊かさを前面に押し出しているように思う。
ただ、骨格は太くしっかりしているため、音像の暈けや音場の霞みはない。
一方、同じトリオの少し前の人気モデルKA-3300の特徴として目にした、丸太のような極太の音――というほどの迫力は感じられず、これをKA-5300にも期待していた気持ちも少しあったので、この点はやや残念と言えば残念だ。
これは恐らく、時代の進行とともに様々なジャンルの音楽を卒なく熟すオールラウンダーの能力が重視されるようになった結果ではないだろうかと思うが、ともあれ十分に魅力的な音であることは間違いないし、ジャズとクラシックいう互いに大きく性格の異なったジャンルを聴く私としては、却って好もしいと肯定的に考えるのが妥当であろう。