旅の四日目、花蓮の宿で朝目覚めると咽喉に痛みが出ていた。
これも我慢できないほどではなかったが、早く起きて美しい海岸として知られる七星潭へ行こうとの考えは萎んでしまった。
依然としてあまり食欲はなく、さて朝食はどうしようかとGoogleマップを眺めると、駅前に花蓮の名物ワンタン(扁食)の店がある。
前日通りかかった時にも気になっていたし、朝8時からの営業と記されていたので、その時刻を待って出かけた。
肉・魚といったワンタンの具と、春雨・ビーフンなどの添え物を組み合わせる形のメニューから、エビワンタン+春雨を注文。
年季の入ったおばさんに手早く調理されて出されたそれは実に美味そうに見えたのだが、口に入れてみると、先に十分老街で食ったわかめスープと同様、ほとんど味が感じられない。
体調が不良で味覚にも異常を来たしているのかと思い、さらに何度か口に含んでみたけれど、ワンタンの皮や春雨、そしてエビそのものの味が微かに舌を打つだけである。
素材本来の味を愉しんでこそ――などと通ぶるつもりのない身にとっては、とても丼一杯我慢できるものではない。
そこで店のおばさんに、少し調味料を加えて欲しい旨、英語と日本語で伝えたところ、大きな瓶に入った何かを大匙にすくって入れてくれた。
その際、別に嫌な顔もされなかったことからしても、やはり調味は客が好みに応じてするもののようだ。
しっかりと味の付加されたエビワンタンは確かに美味かった。
この日はまず新自強号で池上を目指す。
11時過ぎ、定刻に入線して来た列車に乗車してほぼ一時間半、こちらもダイヤ通り池上に着いた。
ここで下車したのは、名立たる池上飯包(弁当)を食するためだ。
元々は駅弁として売られていたとのことだが、現在は駅前のいくつかの店で販売されており、それを購入して店内で食べるスタイルとなっている。
駅を出てすぐ左に、その一軒「家郷正宗池上飯包」が見えたのでそこへ入ると、昼食時をやや過ぎていたためか空いていた。
しかし、この店の一種類だけの弁当を購入してテーブルに着き、自由に食べて良いというスープと野菜の炒め物も取って食事を始めたところ、突然大勢の客が到来してあっという間に席が埋まり、我が方にも母娘と婆の三人連れが相席となった。
さて、その池上飯包の味であるが、正直なところさして美味いとは思えなかった。
台湾を代表するという池上米もそうだし、総菜もうま味の欠けた直接的な味付けに留まっている感じなのだ。
さらに食べ放題で提供されたスープと野菜炒めもほとんど味がなく、どこかのおじさんがその炒め物をあちこち装って回り、当方の皿にもどっさり追加してくれたのだけれど、その親切も有難迷惑の感を否めなかった。
もっとも、先にも書いた通り体調不良により味覚に異常を来たしていた部分もあったに違いない。
また機会があれば、台湾を再訪して再度試してみたいと思う。
池上からこの日泊まる台東までは遠くなく、同じく新自強号に乗ること三十分ほどで到着した。
この区間を含め、台湾で何度も目にして印象的だったのは、降雨を集めた川が急峻な山地を一気に流れ下って来ることで生じるらしい次の景色である。
ここには写っていないが、重機が入って保全工事を行っているケースも多く、その後もさらに至る所で目にすることとなった。
この日の宿は、現在の台鉄台東駅から6kmほど離れた旧台東駅近くにあり、そこまではバスで行く必要がある。
台東駅前のターミナルでそれらしいバスを見つけ、念のためスマートフォンのGoogle翻訳画面を示し、確認した上で乗車した。
宿もすぐ見つかったが、フロントの姉さんは英語を解せず、ここでもスマートフォンの助けを借りてチェックインを済ませた。
10台ほどのベッドの並んだドミトリーには誰もおらず、割り当てられたベッドへ入って取り敢えずそのスマートフォンの充電を――と荷を探ったが、充電器がない。
どうやら、朝発ってきた花蓮の宿に忘れて来たらしく、充電器と一緒に収納していたイヤフォンも見当たらなかった。
この先の列車のチケットや航空券もスマートフォンに入っており、これが使えないとなると旅が成り立たない。
そこで充電器を調達しようとしたが、何分右も左もわからない土地ゆえ、フロントへ降りてまた先ほどの姉さんとスマートフォンでやり取りして近くの電器店を教えてもらった。
「3C(Computer, Communication, Consumer electronics)の店」と台湾では言うようだ。
最初入った店にあったのはケーブルと合わせて約四千円、いくら緊急事態とはいえ高過ぎる。
そこでもう一軒当たってみたところ、ほぼ半額のものが置かれていたのでこれを購入した。
こうして事なきを得て宿へ戻る途中、突然スコールのような大雨。
体調不良に加えて気分的にもぐったり疲れ、どこへ出かける気にもならず早々に寝てしまった。