蓼科高原日記

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現代中国文学 第一巻 魯迅

五年ほど前、色々な文学全集を渉猟した時期に入手しながら長らく書棚に並べたまま開く機会のなかった、河出書房新社版「現代中国文学」を今般漸く繙いた。

 

先ず手にしたのはもちろんその第一巻、魯迅の作品を集めたものである。

 

20230604-現代中国文学 第一巻 魯迅

 

叢書のタイトルからしても、この巻にこの作家が位置するのは当然と言えよう。

 

因みに、全十二巻の構成は次の通りである。

 

第1巻 魯迅
第2巻 茅盾
第3巻 郭沫若
第4巻 老舎・巴金
第5巻 丁玲・沈従文
第6巻 郁達夫・曹禺
第7巻 李劼人
第8巻 趙樹理
第9巻 曲波
第10巻 羅広斌・楊益言
第11巻 短篇集
第12巻 評論・散文

 


既に二十一世紀も二十年以上経過した現在においては、これらの作家を「現代中国文学」に位置付けるにはかなりの無理があり、「近代」とでもするのが得策ではないかと思われるけれども、同叢書の刊行が1970(昭和45)年であることを鑑みれば納得できなくもない。

 

いや、より率直に、この時点に視座を据えたとしても些か妥当性に欠けると言うべきかもしれない。

 

もっとも、さらに少し時代を遡った1954(昭和34)年、河出書房新社の前身たる河出書房が「現代中国文学全集」を出しているので、「現代中国文学」はこれを焼き直したものらしく、その関係から叢書名も倣ったのであろう。

 

また、「現代中国文学全集」の方は全十五巻、しかも各巻の分量もやや多いようなので、「全集」を取り去ることで重い印象を軽減しようとの意図があったのではないかとも想像される。

 


話を現代中国文学第1巻に戻すと、ここには魯迅の生前に刊行された以下の作品集および代表的評論が大きな括りとして収録されている。

 

吶喊(抄)
彷徨(抄)
野草(全)
朝花夕拾(抄)
故事新編(抄)
評論


魯迅の名を耳にして誰もが真っ先に想起するであろう「阿Q正伝」「狂人日記」は、もちろん「吶喊」の一部を成す作品だ。

 


小説をはじめとして随筆・評論まで、ジャンルが広範に亘るだけではなく、素材の面でも幼い頃の体験や記憶から、夢想・空想、さらには中国の神話・伝説・史実といったさまざまなものに基づく、短いながらも豊かで味わい深い文章からは、魯迅の面影をよく窺うことができる。

 

個人的に、これらの作品の中には過去に岩波文庫版などで読んだものもかなり交じっていたものの、やはり良いものは何度読んでも色褪せないことを再認識した。

 

同時に、中国近代文化を代表するこの巨人の姿をより正確に捉えるには、まだまだ膨大な文筆を玩味精読せねばならないということも。

 


魯迅の個人全集としては、やはり既に絶版ながら、学研の刊行した全二十巻などがある。